不倫した配偶者からの財産分与請求は可能か?
不貞慰謝料
目次
- 1.不倫慰謝料と財産分与は別
- 2.財産分与とは
- 2-1.清算的財産分与
- 2-2.扶養的財産分与
- 2-3.慰謝料的財産分与
- 3.財産分与請求権の請求期限
- 3-1.除斥期間がせまっている場合の対応
- 4.財産分与請求権の内容
- 4-1.原則、財産分与の割合は2分の1
- 4-2.財産分与の対象
- 4-2-1.マイナスの財産は清算対象
- 4-2-2.共有財産全体でマイナスの場合
- 5.不倫が原因で離婚する際の財産分与
- 5-1.離婚前の財産分与の流れ
- 5-1-1.協議離婚(話し合い)
- 5-1-2.離婚調停
- 5-1-3.離婚裁判(離婚訴訟)
- 5-2.離婚後の財産分与の流れ
- 5-2-1.財産分与調停
- 5-2-2.財産分与審判
- 6.まとめ
1.不倫慰謝料と財産分与は別
不倫が原因で離婚することになった場合にも、夫婦間での財産分与は可能です。
財産分与とは「夫婦で婚姻中に協力して築いた共有財産を、それぞれの貢献の程度(寄与度)に応じて分配すること」です。
不倫慰謝料とは「円満な夫婦関係が壊されたことの精神的苦痛に対する慰謝料請求」です。
財産分与(民法768条)と不倫慰謝料(民法709条)は、それぞれに根拠が異なります。
別問題であるため、不倫をした配偶者が財産分を請求することは可能です。
なお、離婚原因をつくった配偶者を法律上「有責配偶者(ゆうせきはいぐうしゃ)」と言います。
離婚の責任がある(有る)、という意味です。
不倫をした配偶者は「有責配偶者」となります。
参考 │ 有責配偶者でも獲得可能な権利
有責配偶者であったとしても獲得可能な権利があります。
今回の「財産分与」をはじめ、お子さまの「親権」や、親権獲得による「養育費」です。
親権、養育費は、法律上「お子さまの利益のための権利」です。
不倫をしたこととは関係がありません。
このように、法的に趣旨が異なるものは、それぞれに請求が可能です。
あとは、夫婦間の話し合いなどで、金銭面などで調整をはかっていきます。
参考 │ 不倫による離婚でも請求可能なもの
不倫による離婚で関係する「お金」は次のものがあります。
それぞれの趣旨が異なる場合には、請求が可能です。
但し、実際には離婚に向けた話し合いの中で、金額の調整がはかられることが多いです。
項 目 | 趣 旨 |
---|---|
財産分与 | 【離婚】 婚姻中の共同財産の分配 |
養育費 | 【離婚】 子供の権利(親権者の権利ではありません)。子供と生活、教育をおこなううえでの必要な費用 |
年金分割 |
【離婚】 婚姻中に支払った厚生年金保険料納付などの年金記録を分割 |
離婚慰謝料 | 【離婚】 不貞・DVなど離婚原因を作った配偶者に対する慰謝料 |
不貞慰謝料 | 【不倫】 不倫による円満な夫婦関係破綻の精神的苦痛に対する慰謝料 |
2.財産分与とは
財産分与とは、法律上認められている、一方の配偶者に対する共有財産の分配を求めることを言います。
1項 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
財産分与には、次の3つの意味があります。
2-1.清算的財産分与
離婚における財産分与の主な内容となります。
婚姻期間中に築いた共有財産を、貢献度に応じて公平に分配し清算することです。
2-2.扶養的財産分与
離婚後の生活の経済的に自立し、安定した生活を送るためのものとして財産分与をおこなう、という趣旨のものです。
未成年の子の親権を獲得した専業主婦のように、経済的な柱がなく、分与の必要性がある場合などに認められます。
2-3.慰謝料的財産分与
財産分与は「清算的財産分与」のように、共有財産の清算が本来の目的です。
ただ、不倫による精神的苦痛をうけたことに対する慰謝料の支払いを事実上求めていくことも可能です。
離婚と不倫慰謝料請求とは別の制度です。
しかし、実際の場面では「財産分与の割合を多くする」ことで慰謝料請求を兼ねて対応することもあります。
なお、慰謝料的財産分与は、不倫に限らずドメスティックバイオレンス(DV)などのケースであっても考慮されます。
不貞慰謝料請求の金額を決める要素や相場については、次のコラムで解説しています。
参照記事
- 不倫・浮気の慰謝料相場と請求方法
不倫による慰謝料請求の方法と、金額が高額、減額になるなどの増減要素まで弁護士が解説します。
配偶者以外と肉体関係をもつことを法律上「不貞行為(ふていこうい)」と言います。不貞行為は、法律上の違法行為であり、精神的苦痛を理由として損害賠償請求が可能です。
3.財産分与請求権の請求期限
離婚における財産分与の請求権には期限があります。
財産分与の権利は、一定の期間(除斥期間)の経過により消滅します。
「離婚が成立してから2年経過で当然に消滅」します。
離婚成立後にも、財産分与を請求することは可能ですが、除斥期間があることに注意が必要です。
離婚後に相手と疎遠になり財産分与に応じてくれないまま、除斥期間をむかえるリスクもあります。そのため、配偶者と連絡がつき易い離婚前に財産分与の話し合いをしておくことが大切です。
2項 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から2年を経過したときは、この限りでない。
3-1.除斥期間がせまっている場合の対応
除斥期間がせまっている場合、家庭裁判所に財産分与請求調停を申立てます。
調停期間中に、離婚から2年経過する場合でも手続は終了することはありません。
しかし、離婚から2年を経過する前に申立をおこなう必要があります。
なお、除斥期間と似た法律の制度で「消滅時効」と呼ばれるものがあります。
消滅時効もまた期限をむかえると権利が消滅します。
ただ、一定の行為をおこなうことで、中断(時効の完成猶予)や時効の進行をリセット(時効の更新)することが可能です。
離婚における財産分与は「除斥期間」で、2年経過で消滅してしまうため、期間経過について、より注意が必要です。
ただ、除斥期間経過後であっても、当事者双方が合意すれば財産分与は可能です。
除斥期間がせまっている場合、急いで調停手続きの書面作成をしなければなりません。
自分だけで対応が難しい場合には、当事務所までご相談ください。
4.財産分与請求権の内容
相手方の配偶者に対して財産分与を求めることができる権利を「財産分与請求権」と言います。
法律上で認められた制度です(民法768条)。
では、財産分与の権利が具体的にどのような内容となっているのかを解説します。
4-1.原則、財産分与の割合は2分の1
財産分与の割合は、原則として夫婦の財産を2分の1となっています。
妻が専業主婦である場合でも、妻が家事や育児をおこなうなどの寄与(貢献)があるからこそ、夫は働き収入を得ることができた、共有財産を築くことができたと考えられています。
2分の1ルールは原則で、例外もあります。
財産の形成に著しい貢献があった場合や、反対にギャンブルや浪費による共同財産への著しいダメージを与えた場合などには、原則半分のルールから割合が修正されることがあります。
不倫をした配偶者が、不倫相手と海外旅行を重ね、高価なブランド品を贈るなどしていたような場合には、財産分与の割合が修正される可能性があります。
4-2.財産分与の対象
不倫で離婚する場合も、通常の財産分与と変わらず、以下の共有財産が分与の対象となります。
参考 │ 離婚の財産分与対象の共有財産の例
- 現預金
- 有価証券
- 保険契約の解約返戻金
- 退職金
- 自動車
- 不動産
- 動産類(貴金属、宝石、絵画、家財道具など)
なお、財産分与の対象は名義に左右されません。
たとえば預貯金は、夫婦共同名義での口座作成はできないため、一方の名義の口座に貯蓄されていることが一般的です。
実質共有財産となるものが、財産分与の対象となります。
また、離婚前に離婚を前提とした別居をしている場合、原則として別居までのものが財産分与の対象となります。
別居後の財産は、分与の対象になりません。
なお、別居時の生活費(婚姻費用)については、財産分与とは別に請求することも可能です。
4-2-1.マイナスの財産は清算対象
マイナスの財産(債務)は、実務上は財産分与の対象でないとされています。
ただし、住宅ローンや増改築費用など資産をつくるために負担した債務、生活費不足による借金や子ども教育資金のためにした教育ローンなど家計維持のための債務、預金を担保とする債務などは、財産分与において考慮される(実質的な清算対象となる)ことになります。
したがって、プラスの財産が全くなく、マイナスの財産しかない場合は、財産分与の対象財産がないため財産分与の申立て自体ができません。
4-2-2.共有財産全体でマイナスの場合
財産分与の対象となるプラスの財産と、清算対象であるマイナスの財産がある場合において、全体としてマイナスになることがあります。
この場合、プラスの財産をどう分けるのかを決めるなかで、マイナスの財産の考慮して財産分与をおこないます。
たとえば、唯一の共有財産が持ち家(住宅ローンはご主人名義で契約、保証人なし)の場合を例に考えてみます。
持ち家の査定額が3000万円で、売却後にローンが1000万円残る場合(オーバーローン)、ご主人は住宅ローンの契約者であるため金融機関に返済を継続する必要があります。
他方、奥さまにおいては共有財産全体で考えた時に「マイナス」となるため、財産分与請求権は発生しません。
また、住宅ローンの残り1000万円を折半して払う必要もありません。
単に、財産分与請求権が発生しない、ということになります。
(但し、夫婦の一方の保証人となっている場合には、住宅ローンの支払い義務があるため、事情に応じた財産分与をおこなう必要があります。)
なお、配偶者に自宅を財産分与として譲渡されるケースもあると思います。
ただ、この場合でも抵当権がついている場合、住宅ローンの不払いがあれば、銀行は抵当権にもとづいて売却処分が可能です。
譲渡した側の配偶者は、支払いが遅れたり、未払いにならないよう注意が必要です。
しかし、住宅ローンの借入時に、所有者の名義を変更する場合には、借入先の銀行や保証会社からの承諾を得ることが借り入れの条件に含まれている場合があります。
自宅を譲り、譲った側が財産分与の代わりに住宅ローンの返済を継続される場合でも、きちんと住宅ローンの契約内容を確認しておきましょう。
5.不倫が原因で離婚する際の財産分与
不倫が離婚原因であったとしても、財産分与の請求方法に特に変わりはありません。
「財産分与」の問題を解決するための流れは次のとおりです。
5-1.離婚前の財産分与の流れ
離婚手続のなかで、財産分与の内容を決めていくことになります。
離婚手続は次のとおりです。
5-1-1.協議離婚(話し合い)
離婚の約90%「協議離婚(話し合い)」により成立しています。(厚生労働省 令和4年度「離婚に関する統計」の概況 )
協議離婚は、裁判所の手続よりも話し合いの方が柔軟に離婚条件を決めることができ、費用や手続の負担を抑えることができます。
協議離婚で合意した内容(結果)は、書面にしておくことが大切です。
財産分与など「金銭に関する合意」をした場合、離婚協議書を公正証書で作成しておくと安心です。
公正証書は、公証役場で作成する書面です。
公証人(こうしょうにん)と呼ばれる、元裁判官などの法律のプロが法的に有効な書面を作成します。
公正証書作成のメリットのひとつは、養育費などの未払いがあったときに、裁判手続をせずに、相手の口座を差し押さえるなど強制執行をおこなうことができることです。
離婚後のトラブルによる負担を抑えることができます。
5-1-2.離婚調停
裁判手続では不倫をした有責配偶者からの離婚請求は認められません。
家庭裁判所の調停手続きは、調停委員と呼ばれる第三者を交えて話し合いをおこないます。
そのため、相手が調停に出廷しない、合意にいたらない場合には「調停不成立」となり、調停手続きが終了となります。
なお、裁判所を利用した手続は「調停前置主義」といって、いきなり裁判離婚はできず、調停手続きを申立てる必要があります。
5-1-3.離婚裁判(離婚訴訟)
調停が不成立になって初めて、裁判を申立てることができます。
訴訟は調停と異なり、お互いの主張を戦わせて、裁判所に判断(判決)を求めます。
訴訟のなかで、裁判官が和解を勧めることもあり、判決ではなく和解をすることも可能です。
5-2.離婚後の財産分与の流れ
離婚後に財産分与を配偶者に求める場合の方法は、①話し合い、②裁判所手続の利用です。
話し合いによる財産分与が合意できない場合、裁判所手続を利用します。
5-2-1.財産分与調停
家庭裁判所で調停委員を交えて、財産分与の話し合いをおこなう調停手続です。
調停が不成立の場合には、自動的に審判に移行します。
5-2-2.財産分与審判
審判は、訴訟と同じくお互いの主張や証拠の提出などを通して、裁判所の審判(判断)を求める手続です。
離婚調停と異なり、いきなり審判を申し立てることが可能です。
但し、裁判所の実務では、裁判所の権限(職権)で調停に回されることが多いです。
6.まとめ
不倫を原因とする離婚で問題となりやすいのは、不倫した配偶者からの財産分与請求です。
不倫をされた配偶者の立場からすれば、浮気相手からの財産分与の請求には納得がいかないのは当然のことです。
しかし、財産分与と不貞慰謝料は別の問題です。
財産分与は、原則として婚姻期間中に築いた共有財産を2分の1の割合で分配します。
ただ、離婚手続の中で不倫・浮気の慰謝料の意味を含めて、財産分与の割合を調整することがあります。
財産分与と合わせて、子どもの養育費や面会交流、年金分割などの離婚条件についても取り決めをしておきましょう。
離婚時にしっかりと問題を解決しておくことで、請求漏れなどのリスクを回避できるメリットがあります。
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