離婚における「別居」のメリット・デメリット。別居中の生活費の請求方法も解説。


離婚

執筆者 弁護士 古山 隼也 (こやま しゅんや)


  • 大阪弁護士会所属 登録番号 第47601号

略歴

清風高等学校卒業/大阪市立大学卒業/大阪市役所入庁(平成18年まで勤務)/京都大学法科大学院卒業/古山綜合法律事務所 代表弁護士

講演・メディア出演・著書

朝日放送「キャスト」/弁護士の顔が見える中小企業法律相談ガイド(弁護士協同組合・共著)/滝川中学校 講演「インターネットトラブルにあわないために-トラブル事例を通じて-」


大阪市職員、大阪・京都の法律事務所の勤務経験を活かし、法律サービスの提供を受ける側に立った分かりやすい言葉で説明、丁寧なサポートで、年間100件以上の問題解決をおこなっています。

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離婚前の別居することのメリット・デメリットや、別居時に問題となる子供の連れ去り、別居期間中の面会交流や養育費の支払い、別居前にやっておくべき離婚準備などについて弁護士が詳しく解説しています。

 

1.離婚と別居の関係




離婚に向けての話し合いが進まない場合に、別居されるご夫婦は少なくありません。
厚生労働省の資料によると調査対象の約7割のご夫婦が別居離婚となっています。

厚生労働省 令和4年度「離婚に関する概況」人口動態統計特殊報告

「(9)同年別居離婚件数の対5年前増減の分析」


2020年(令和2年)

離婚件数   193,253組

別居離婚件数 138,929組

 

また、話し合いによる協議離婚で、約4割の方は「別居前」に離婚を決意したとする統計調査があります(令和2年度法務省委託調査研究「協議離婚に関する実態調査結果の概要」調査対象:協議離婚を経験した30代及び40代の男女 合計1000名 )。

当事者にとって離婚の前段階として、また現状の生活から逃れるために別居をおこなうことが多いのですが、離婚手続きのなかで重要な意味をもつことがあります。

1-1.別居までが財産分与の対象




離婚する際に、大きな壁となるのが離婚条件です。
離婚条件の主な対象は「お金」「子供」に関する権利です。

お金の問題は、例えば婚姻期間中の共有財産の分割による清算としての「財産分与」、別居中の生活費などの支払いである「婚姻費用」、子供の養育費、離婚することへの慰謝料などがあります。

なかでも、財産分与と別居は深い関係があります。
共有財産とは、婚姻期間中に協力して夫婦で築いた財産です。

専業主婦(主夫)でも、その家事協力などの貢献があったからこそ経済的な収入を得られたと言えます。
そのため、相手配偶者名義の預貯金でも共有財産と言える場合には、その分割を求めることができます。
つまり、財産の名義を問わず、実質共有財産となるものは分与の対象となります。

ただ、この財産分与の対象となるのは、原則として別居までの財産です。
別居後に得た収入などの財産は、ご自身の固有財産となります。

例外として、別居の始まりが勤務先の異動命令による「単身赴任」であって、その途中に相手配偶者が「離婚に向けた別居」を意思表明したような場合、意思表明をした時点までの財産が分与の対象となります。
この時期の判断は難しいため、専門家である弁護士に相談されると良いでしょう。

離婚のための別居といえるかの判断が難しいケースとして、家庭内別居があります。
どのような家庭内別居状態であれば「婚姻関係が破綻している」と言えるのか明確な基準はありません。
個別の事情をもとに判断するほかないのが現状です。

1-2.夫婦関係が破綻しているかの判断材料


相手配偶者が離婚に応じない場合があります。
話し合いによる離婚が難しい場合、家庭裁判所の離婚調停の利用を検討します。

調停手続は、調停委員を交えた話し合いです。
調停による話し合いでも離婚の合意が成立しなければ、離婚裁判へと進めることができます。
日本の制度上、いきなり裁判できません。まずは調停をおこないます。調停前置主義)



離婚裁判で離婚が認められるためには、離婚原因が必要です。

法律上、5つの法定離婚事由が定められています。

この中で、別居は離婚原因である「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」にあたり、離婚が認められる可能性があります

参照 民法第770条【裁判上の離婚】

夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
  一 配偶者に不貞な行為があったとき
  二 配偶者から悪意で遺棄されたとき
  三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき
  四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
  五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
② 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。


夫婦には同居して、お互いに助け合う義務があります(民法752条 同居、協力及び扶助の義務)。

その義務を放棄して、単身赴任など合理的理由がなく夫婦間の交流のないまま別居が継続しているかをもって、裁判官は「婚姻関係が破綻しているかどうか」を判断します。

なお、「単なる別居」だけでは、婚姻関係が破綻しているとは言えません。
① 合理的な理由のない別居であること、② 別居期間の長さがポイントになります。

1-2-1.別居期間の長さ


裁判官に婚姻関係が破綻していると認定を受けるために必要な別居期間は、ケースバイケースです。
何年別居していれば婚姻関係の破綻が認められるか明確な基準はありません。

ただ、離婚原因を作った配偶者を「有責配偶者(ゆうせきはいぐうしゃ)」といいますが、離婚裁判では有責配偶者からの離婚請求ではない場合、別居期間が「3年~5年」を基準に婚姻関係の破綻を判断されています。
また、同居期間に比べて長期間に渡るほど認定されやすいです。


しかし、DV・モラハラなどの事情がある場合、そのDV等があること自体が婚姻を継続し難い重大な事由に当たるため、比較的短い別居期間でも離婚を認められやすいです。

なお、不倫・浮気をした配偶者を「有責配偶者(ゆうせきはいぐうしゃ)」と言いますが、この有責配偶者から裁判上の離婚請求は難しいと言えます。

そのため有責配偶者が離婚したい場合、別居を開始することで婚姻関係の破綻の事実を作り、その破綻を原因として離婚裁判を提起できる可能性があります。

このように、離婚における別居は、「財産分与」や「離婚請求(離婚原因)」において重要な意味をもっています。

ただ、別居を始めるには、別居時の生活費の工面、お子様を連れて自宅を出るのかなど大きな課題があります。

 

2.別居のメリット・デメリット


離婚前に別居することが、あなたにとってメリットが大きいかどうかを確認しましょう。

別居にデメリットはどうしても生じてしまいます。
そのため離婚を進めるにあたり、デメリットを許容できるかどうかが「別居」するかの判断基準としても良いでしょう。

2-1.別居するメリット


別居のメリットは次の内容が挙げられます。

離婚における「別居」のメリット
離婚手続面のメリット
  • 離婚原因となる
    長期の別居期間は裁判離婚が認められる可能性が高くなります。
  • 相手方にプレッシャーを与える
    離婚の意思が固いことが伝わり、離婚交渉が進む可能性があります。
    別居中に婚姻費用の支払いを受ける場合、支払義務のある配偶者はその負担の大きさに屈して交渉に応じるケースがあります。
実生活面のメリット
  • DV・虐待・モラハラからの避難
  • 同居のストレスからの解放


相手配偶者から生活を切り離すことで精神的な安心を確保しながら、新生活に向けた準備を進められることがメリットとして挙げられます。

2-2.別居するデメリット


別居によるデメリットには、主に次の内容があります。

離婚における「別居」のデメリット
離婚手続面のデメリット
  • 婚姻関係の修復・復縁が難しくなる
  • 離婚請求・慰謝料請求を受けるリスク
    家計の大黒柱である配偶者が一方的に別居を開始し、残した家族に生活費を入れないでいると、法律上の離婚原因「悪意の遺棄」や、夫婦の「同居義務違反」にあたるとして、離婚請求や慰謝料請求を受ける可能性が生じます。
    ただ実際には悪意の遺棄を理由に裁判離婚が認められるケースはあまりありません。
  • 相手の財産調査、不貞行為の証拠収集が難しくなる
    財産分与を求める際の「共有財産の把握」、不倫・浮気を原因とする離婚を求める場合の「不貞行為の証拠」を確保できるかが有利な離婚を進める上での大切なポイントです。
    別居前に調査、収集をおこなうことが大切です。
    一旦別居を開始すると、自宅に戻ることは困難で、こうした活動は難しくなります。別居のタイミングを慎重に判断しましょう。
実生活面のデメリット
  • 経済的に困窮する可能性が高い
    専業主婦(主夫)など無収入の方や相手方より収入が低い方が別居する場合、相手方への婚姻費用請求が可能です。
    しかし、請求に応じない場合や相手方の収入自体が低い場合などは、行政の支援、就職先を探すなど経済的な自立を目指す必要があります。
  • 住居・仕事の確保
    新生活の基盤となる住まい、収入を確保します。
    別居生活で必要となる生活費を「家計収支表」を作り、シミュレーションしてみることをお勧めします。
    必要金額を明確にすることで、実家に身を寄せるのか、公営住宅で支援を受けながらお子様と生活をするのか、具体的なリスクを考えていくことが可能です。 


別居のデメリットは、「経済面での自立ができるかどうか」という点がクリアできるかが問題となります。

新生活に向けた具体的な計画や行動は、今の日々の生活のなかでおこなう必要があります。
そのため、体力的にも精神的にも厳しいことがあります。
次に、別居を決意したのち、実際にどのように進めるのが良いのかを解説します。

 

3.別居の進め方


別居による新生活を確保するために、次のチェックリストを元に準備を進めてはいかがでしょうか。

別居の準備チェックリスト
  • 住居の確保
  • 経済面から、実家/公営住宅/敷金礼金なしの物件(URなど)にするか。
    子供の養育環境を優先するか、などの点を検討し住まいを確保します。
    • 収入の確保
  • 専業主婦(主夫)の場合、毎月の支出/特定月に必要となる支出に足りる収入を確保する。新たに仕事を見つけてから別居することを検討します。
  • 自分より収入の高い方の配偶者に対して婚姻費用を請求することは可能ですが、その支払について争いになってしまった場合、手元に入るまで時間がかかります。ご自身の収入等だけで当面の生活を送ることができるか、しっかり確認しておきます。
    • 行政の支援を確認
  • 児童手当 / 児童扶養手当/母子家庭(父子家庭)の住宅手当 / ひとり親家庭の医療費助成 / 子供医療費助成 / 特別児童扶養手当 / 障害児福祉手当 / 児童育成手当など受け取りが可能な公的扶助・支援を、新生活の居住先の市区町村役所で確認します。
    従前受け取っていた手当等の受取口座が相手配偶者名義の口座である場合、振込先口座の変更手続を済ませておきます。
  • 国民健康保険の免除/国民年金の免除/電話・バスの割引(児童育成手当受給の場合)/上下水道料金の割引/保億両の減免など支出が抑えられる制度がある自治体もあります。事前に役所窓口等で確認します。
  • 婚姻費用の受け取り、行政の支援を受けても生活することが厳しい場合には、生活保護の申請も検討します。
    • 共有財産の調査
  • 離婚時、適切な財産分与を受けるために、相手が管理する共有財産の把握ができているかが大切です。
  • 財産分与は原則、夫婦として半分ずつです。
    個別の事情や、当事者の合意がある場合には分与の割合が変わります。
  • 相手方名義の預貯金口座も、生活費口座として利用している場合は、共有財産となる場合があります。また、預貯金通帳の入出金履歴から、ご自身が把握されていなかった証券会社との取引、保険契約などが発覚する場合があります。写真で撮影するなど証拠化しておくと良いでしょう。
    • 相手の収入の確認
  • 相手方の収入が分かる給与明細、源泉徴収票などがあると、婚姻費用の請求や交渉がスムーズに進められます。
    • 不貞の証拠収集
  • 不倫、浮気を原因に離婚する場合、一般的に慰謝料請求をおこないます。
    相手が不貞行為を認めていない場合には証拠の有無が交渉結果を左右します。同居中の時の方が相手との距離も近く、証拠収集の範囲が広くなります。


別居をスムーズに始めるためには、今後経済的に自立するために必要な「衣食住」の支出が見える家計収支表をもとに、ひとつひとつ生活基盤を確保していくのも良いかもしれません。

3-1.別居の注意点


別居時で注意するべき点について、想定されるケース別に解説します。

3-1-1.悪意の遺棄にあたる別居


法律上、夫婦は同居し助け合う義務があります。

それにも関わらず、正当な理由なく一方的に別居を開始した場合には、法律上の離婚事由である「悪意の遺棄」(民法770条1項2号)に当たる可能性があります。

ただ、実際には一方的な別居を「悪意の遺棄」として離婚原因や離婚慰謝料が認められることはほとんどありません。

しかし、家族にとって経済的な柱である配偶者が、ある日突然不倫相手と暮らし始めたり、我慢ならないと自宅を飛び出して戻らない場合、残された家族は経済的にも困窮してしまいます。

収入の高い配偶者は、低い方の配偶者に対して扶養義務があり、生活費を支払うのが原則です。
別居を開始したとしても、相手方を著しく困らせるような状況におくことは避けるようにしましょう。

3-1-2.別居中の不倫・浮気


別居中の配偶者が不倫・浮気をした場合、不貞慰謝料を請求されるリスクがあります。

配偶者以外との性交及び性交類似行為をおこなった場合、離婚事由のひとつ「不貞行為」にあたるため、離婚裁判で離婚が認められる可能性があります。

冷却期間のための別居であったとしても、より関係修復は困難になります。

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3-1-3.子供の連れ去り


別居前に相手方配偶者と話をして、「別居することに合意できた」ご夫婦は全体の約7割という調査結果があります(前掲 厚生労働省 令和4年度「離婚に関する統計」の概況)。

多くのご夫婦は、「別居すること」を別居前のタイミングで切り出していることになります。

また、「別居すること」、子どもとの「面会交流」や「養育費」などについても多くのご夫婦が事前に話し合いをされて同意を得ていることが統計調査から分かります。

ただ、相手方へ別居を告げることなく子どもを連れて突然別居するケースも多く、これをもって離婚自体や親権獲得に悪影響を与える可能性は低いです。

また、別居前から子どもを養育していた「監護の実績」のある親が子どもを連れて別居するケースも非常に多く、監護の実績の有無は子どもの連れ去りとあまり関係ありません。

なお、刑事事件において、相手方配偶者が子を連れて別居し、監護(養育)されている子を、離婚前で共同親権者である他方の親が力づくで奪い返す行為は「未成年者略取罪」にあたり逮捕される可能性があります。

ただ、家事事件において、親権に関して、違法に奪い返した親(奪取者)と、奪われた側の親(被奪取者)のどちらに監護させる場合を比較して、奪取者による監護が子どもの福祉にとって積極的に意味があるものと認められない限り、被奪取者を監護者として指定するべきと考えられています。

近年では、こうした子どもの連れ去り、連れ戻しに対して国会でも取り上げられることがあり、警察庁刑事局が都道府県警本部に「適切な対応」を求める通達をおこなっています。
別居により離れ離れになった子どもを力づくで奪い返す行為は「違法な子供の連れ去り」を主張される可能性があります。離婚の際に親権獲得を希望される場合、不利に働く事情となることもあるため注意が必要です。

3-1-4.DV・モラハラによる別居


暴力などを受け、身の危険がある場合には、シェルターへの避難や引っ越しを検討します。
この際、転居先が知られないよう、① 住民票を移さない、② 市区町村の役所に住民票の閲覧制限を依頼する、などの方法を取ります。

現在の住所地は、「住民票」「戸籍の附票」から相手に知られることがあります。
住民票のある市区町村役所にDV等支援措置を申し出ることで、閲覧や交付制限(拒否)の措置をとってもらうことができます。
なお、離婚調停などの手続きでは、申立書に当事者の住所を記載します。

ただ、裁判書類からご自身の現住所が知られないよう、申立書の住所表記等の閲覧制限をかけることができます。
実務上、シェルターへの避難の場合、住民票を異動させないこともあります。そのため、「住民票上の住所」や「旧住所」を記載することが多いです。

また、DVがある場合、離婚裁判では別居期間に関わらず離婚が認められる可能性が高いです。
ただ、離婚協議、離婚調停、離婚裁判では相手と接触する機会があり、自分ひとりでは対応が難しいと思いますので第三者として弁護士を立てることが望ましいと言えます。

参照リンク

 

3-1-5.別居中の面会交流


別居前に相手方との話し合いにより、約4割のご夫婦が別居中に一緒に暮らさない(同居しない)配偶者と子どもとの「面会等の仕方」について合意できたとされています(前掲 厚生労働省 令和4年度「離婚に関する統計」の概況)。

面会交流は、子どもにとっての権利です。
基本的に、離婚成立前の別居中の期間でも、面会交流は実施されるべきものです。

面会交流については、面会日時、面会場所、面会方法、子どもの受渡しの方法、面会に関する費用の負担、面会交流のための連絡方法、子どもの急病などのときの対応方法、などを取り決めます。

面会交流に応じることで、その後の離婚調停、離婚裁判などで「子どもの福祉」を考えて対応しているとして、親権者決定の判断にプラスに働く可能性があります。

間接交流の方法としては、テレビ電話やメール・ショートメッセージ、手紙・写真などの郵送、などがあります。
また、直接相手方と会いたくない場合には、第三者機関である「親子交流支援団体等(面会交流支援団体等)」による面会交流サポートを利用されるのもひとつです。

ただ、同居時にDV・虐待、相手方に薬物使用の疑いがあるような場合には面会交流に応じる事にはリスクがあります。
こうしたケースで面会交流を求める調停を起こされた場合には、子どもの福祉や利益に悪影響があることを主張し、面会交流を制限する(面会をさせない)ことを求めていくことになります。

3-1-6.別居中の養育費


別居前に相手方と話をして、約5割のご夫婦が「離婚後の養育費」の支払いについて合意できたとされています(前掲 厚生労働省 令和4年度「離婚に関する統計」の概況)。

養育費の支払は、別居中のみならず、離婚後も法律上の義務です。
子どもが経済的に自立する時点、つまり満20歳、大学進学時には22歳に達した後に初めて到来する3月まで支払うことを約束することが一般的です。
成人年齢は18歳に引き下げられていますが、裁判所では法改正前の20歳を基準とすることが多いです。

毎月の養育費の金額は、父母双方の話し合いで合意できた金額です。

養育費の相場として用いられることが多いのは、家庭裁判所の算定表です。
父母双方の収入、子どもの人数や年齢により算定します。

参照 | 家庭裁判所 養育費・婚姻費用算定表
 「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について
 
 ページタイトルは平成30年度となっていますが、最新の令和元年版です。
 なお、子の人数、年齢別での具体的な養育費の算定表は次のように分かれています。

 子1人 │ 14歳以下
 子1人 │ 15歳以上
 子2人 │ 全員14歳以下
 子2人 │ 第1子15歳以上、第2子14歳以下
 子2人 │ 全員15歳以上
 子3人 │ 全員14歳以下
 子3人 │ 第1子15歳以上、第2子及び第3子14歳以下
 子3人 │ 第1子及び第2子15歳以上、第3子14歳以下
 子3人 │ 全員15歳以上

3-2.別居中の生活費


厚生労働省の統計調査(前掲 厚生労働省 令和4年度「離婚に関する統計」の概況)で、「別居中、夫婦の経済状況に差が生じる場合には、余裕がある方が他方に対して生活費(婚姻費用)を支払わなければならないことを知っていましたか。」とする質問には、約6割の方が「知っていた」とする回答結果が出ています。

また、別居前に相手方配偶者と「別居中の生活費(婚姻費用)の支払い」について合意できた夫婦は、協議離婚をした夫婦の全体の約5割となっています。

ただ合意ができていた方も含めて、実際に別居期間中に生活費(婚姻費用)を「定期的に受けられた」のは約40%とする結果となっています。

それ以外の答えとして、「全くなかった(38%)」「支払いは不定期にあった(約14%)」、「当初はあったが途絶えた(約6%)」、「当初はなかったが離婚後しばらくしてあった(3%)」となっていて、別居を開始した配偶者が経済的に不安定な立場にあったことが分かります。

しっかりと別居期間中の婚姻費用を受け取るためには、どのように対応するべきかについて徹底解説します。

3-2-1.婚姻費用として請求できる


婚姻費用は、夫婦の扶養義務に基づくものであり、法律上の正当な権利です(民法752条)。

夫婦はお互いに同レベルでの生活がおこなえるよう保障する生活保持義務があります。
そのため、収入のない子どもや、自分より収入の低い配偶者に対して、経済的な負担を行わなければなりません。

3-2-2.婚姻費用の相場


婚姻費用の金額は、基本的に夫婦双方が合意した金額です。

毎月の婚姻費用の基準として、家庭裁判所の「養育費・婚姻費用算定表」が用いられることがあります。


具体的な利用方法として、算定表を利用しておおよその目安となる金額を確認します。
個別の事情に基づいて、算定された金額を調整することが考えられます。

 

3-2-3.婚姻費用の計算方法


婚姻費用で利用する改訂標準算定表の見方は次の通りです。

下記の裁判所ホームページの婚姻費用についての算定表である(表10)から(表19)を使用します。

参照 | 家庭裁判所 養育費・婚姻費用算定表
 「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について
 
 ページタイトルは平成30年度となっていますが、最新の令和元年版です。
 なお、子の人数、年齢別での具体的な養育費の算定表は次のように分かれています。

 子1人 │ 14歳以下
 子1人 │ 15歳以上
 子2人 │ 全員14歳以下
 子2人 │ 第1子15歳以上、第2子14歳以下
 子2人 │ 全員15歳以上
 子3人 │ 全員14歳以下
 子3人 │ 第1子15歳以上、第2子及び第3子14歳以下
 子3人 │ 第1子及び第2子15歳以上、第3子14歳以下
 子3人 │ 全員15歳以上


子どもの人数(1人から3人)と年齢(0歳から14歳、15歳以上)、婚姻費用の支払いを受ける権利者の年収、支払義務者の年収をもとに毎月の養育費の額を計算します。

それぞれが「給与(会社員)」「自営(自営業者)」として得ている収入が交差する個所が、毎月の養育費の基準となります。
婚姻費用の算定表では、2万円ほどの金額の幅で定められています。

例えば夫が会社員(給与所得者)で年収500万円、妻は専業主婦で年収が無く、夫婦の間に2歳のお子様がいる場合を考えてみましょう。

2歳のお子様1人の場合、婚姻費用の算定表(表11)を使用します。
夫の方は収入が高いので婚姻費用を支払う義務者、妻はそれを受け取る権利者となります。

なお、算定表を利用する場合、会社員は「源泉徴収票の支払金額(控除前の金額)」、自営業者は「確定申告書の課税される所得金額」が「年収」に当たります。

この表で算定すると毎月10万円~12万円を夫が妻に婚姻費用を支払うことになります。
ただ、算定される金額に幅があるため、お互いの話し合いで具体的に「毎月10万円」といった形で決めていくことになります。
もちろん、当事者同士の話し合いによる合意で、算定表の金額よりも高くしたり、低くしたりすることは可能です。

3-2-4.婚姻費用の請求方法


別居中の婚姻費用の支払いは、基本的に夫婦の話し合いで決定します。
話し合いで婚姻費用の支払いや条件について合意できなかった場合、家庭裁判所の調停や審判による解決をおこないます。

また、弁護士費用がかかるというデメリットはありますが、弁護士に依頼して交渉や調停を進める方法もあります
相手方から婚姻費用など金銭面の支払いに不安がある場合、離婚後の不払いリスクが心配されます。


弁護士に依頼されることで、トラブル再発のリスクを踏まえた交渉や合意書の作成をおこなってもらうことができるため安心です。
また、弁護士が交渉窓口となり直接相手方配偶者とやりとりしてもらえるので、精神的なストレスから解放されます。

■ 話し合いによる請求
毎月の婚姻費用の額、振込期限、振込先口座などについて相手方と話をします。
合意ができた時には、後日「約束した、約束していない」という支払いのトラブルを避けるために書面にしておくと良いでしょう。

婚姻費用を支払う側(義務者)が応じてくれるかは分かりませんが、公証役場で公証人が作成する公正証書で作成することも可能です。
公証人は、元裁判官や元検察官など法律の専門家です。
夫婦の合意内容をもとに、法的に有効な書面を作成してもらうことができます。
支払いを受ける側(権利者)にとって、合意内容を書面化しておくことは大きなメリットがあります。

参照記事



内容証明郵便で婚姻費用を請求することも、相手方にプレッシャーを与えて支払いを促す一つの方法です。
また、婚姻費用分担のスタート時点は、特段の事情がない限り、婚姻費用を請求した時になります。
そのため、発生時期を明確にするという点で、内容証明郵便にて証拠に残る形で請求をおこなうことには一定の意義があります。

ただ、そもそも支払いに応じないケースでは、調停(婚姻費用分担請求調停)を申し立てることが効果的な場合があります(この場合、調停を申し立てた時点が婚姻費用分担のスタート時期となります。)

 

■ 婚姻費用分担請求調停を申し立てる
話し合いによる合意ができない場合、家庭裁判所に「婚姻費用分担請求調停」を申し立てます。

調停手続きは調停委員を交えた裁判所での話し合いです。
夫婦別室の控室で待機し、調停室に交互に呼び出しを受けて調停委員と面談をおこない、合意に向けた調整をおこなってくれます。

月1回程度、平日日中に裁判所へ出向かなければならず、DV・モラハラなどの危害を受けていた場合には相手方と鉢合わせする可能性があります。
こうした負担や心配がある場合には、弁護士に代理人を依頼し任せることも一つの解決方法です。

なお、出頭をする各調停期日の始めと終わりに、当事者が同時に調停室に入って手続の進行予定や次回までの課題などの説明を受けることがあります。
相手と顔を会わせたくない場合には、予め具体的に裁判所に伝えておくことで、配慮を受けられる可能性があります。
また、裁判所に提出する書類は相手方にも交付されることがあります。
相手方に知られたくない情報がある場合には黒塗りにして提出できる場合があります(現住所地を隠したい場合の源泉徴収票の住所記載箇所など)。

夫婦で合意できれば「調停成立」となり、合意内容を記載した「調停調書」を裁判所は作成します。
調停調書は判決と同じく、当事者を法的に拘束します。
調停後に不払いなど合意内容に違反する行為が発生した場合、調停調書があることで給与や預貯金口座の差押えなどの強制執行手続きをおこなうことができます。

一方で、相手方が裁判所に出頭しない、夫婦間で合意に至らなかった場合には「調停不成立」として調停手続きは終了します。
調停不成立で終了となった場合、自動的に「審判」と呼ばれる手続きへと移行します。

 

■ 審判
審判の手続きは、裁判官が提出された証拠や主張などをもとに、裁判所として判断をおこないます。
手続きのイメージとしては「裁判(訴訟)」に近い手続きです。

審問期日(しんもんきじつ)と呼ばれる、裁判所に出頭する日が指定されます。

主張やそれを裏付ける証拠を提出し、手続きは進んでいきます。
双方の主張がある程度出そろった段階で審理は終了となり、裁判所から審判が言い渡されます。

なお、審判内容に不服がある場合、2週間以内に不服申立て(即時抗告:そくじこうこく)ができます。
即時抗告後は、高等裁判所に場所を移して、審理が開始されます。

 

3-2-5.不倫した配偶者からの婚姻費用請求


不倫をした加害者側である配偶者からの婚姻費用請求は認められません。

ただ、加害者が未成年の子供と別居をしている場合の婚姻費用には、その子の養育費を含んでいると考えられています。
そのため、加害者側配偶者の生活費の支払いは拒否することはできますが、子の養育費支払いは親としての義務であるため拒否することはできません。

ただ、加害者側の配偶者が子どもと一緒に暮らして養育し面倒を見る場合に、厳密に配偶者の婚姻費用と子どもの養育費の区切りは困難になることが多いです。

 

3-2-6.離婚時に未払い婚姻費用の清算


離婚調停と婚姻費用分担請求調停は同時に申し立てることが可能です。
この場合、それぞれの内容について同じ調停期日で話合いをおこないます。

別居期間中の婚姻費用について未払いがある場合、その精算を求めることもできます。

ただ、離婚成立後にする未払い婚姻費用の請求には注意が必要です。
婚姻費用が発生するのは請求した時です。
離婚後に初めて請求した場合には、既に離婚が成立している以上「別居」という事実は存在せず、支払い義務は発生しません。

また、調停離婚や審判離婚による場合、合意した内容以外に義務は存在しないことを確認する「清算条項」と呼ばれる約束をしていることがほとんどです。

離婚時に「合意したこと以外に義務はない」ことを確認しているため、未払いの婚姻費用があったとしても離婚時にその支払いを求めることは困難です。

以上のとおり、婚姻費用は請求や未払い時の対応には注意が必要です。

 

4.まとめ


「別居」は離婚問題において、多くの人の悩みの種の一つです。
いつ、どのように始めるのか。
経済的に自立して新しく生活を始められるのか、婚姻費用や子供の問題はどうするべきかなど考えるべきことも多くなっています。

古山綜合法律事務所では、離婚問題について初回無料相談をおこなっています。

法律相談では、① 個別の事情に応じた解決の見通し、② 解決のための選択肢の提案、③ 疑問や不安の質問への回答などをアドバイスさせていただきます。

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