不倫慰謝料請求の裁判手続きと5つの注意点
不貞慰謝料
目次
- 1.不倫で裁判になるケース
- 1-1.話し合いができない場合
- 1-1-1.弁護士から内容証明が届いた(不倫した側)
- 1-2.慰謝料支払いの内容に合意できない場合
- 1-3.裁判をしない方がいい場合
- 1-3-1.不倫された側(証拠がない、不貞慰謝料請求ができる条件を満たさない、無資力)
- 1-3-2.不倫した側(資力がない)
- 1-4.不倫した側の訴訟におけるメリット
- 2.裁判の流れ
- 2-1.訴状の送達と呼び出し
- 2-2.裁判の期日
- 2-2-1.第1回目の期日
- 2-2-2.第2回目以降の期日
- 2-3.和解案の提示
- 2-4.尋問(本人尋問、証人尋問)
- 2-5.判決
- 3.裁判にかかる期間
- 4.裁判の費用
- 4-1.裁判所に納める訴訟費用(裁判費用)
- 4-2.弁護士費用
- 5.裁判手続き、5つの注意点
- 5-1.他人に知られる(公開裁判、訴状が届く)
- 5-1-1.【不倫した側】裁判前に示談する
- 5-2.手続きの負担(費用と出廷)
- 5-3.支払いリスク(支払い能力の確認と一括払い)
- 5-3-1.【不倫された側】支払い能力の確認
- 5-3-2.【不倫した側】一括払い、強制執行のリスク
- 5-4.立証責任は権利主張する側(証拠が必要)
- 5-5.適切な慰謝料にするための対応(適切な慰謝料額)
- 6.まとめ
1.不倫で裁判になるケース
不倫をした配偶者と不倫相手に対して、慰謝料請求が可能です。
ただ、慰謝料の二重取りはできません。
相手の一方から慰謝料全額の支払いを受けた時には、他方からは支払いを受けることはできません。
不倫・浮気のことを法律上「不貞行為(ふていこうい)」と言います。
不貞慰謝料は、法律で定められた夫婦間の貞操義務違反、平穏な婚姻生活の侵害で受けた精神的苦痛に対する損害賠償請求です(民法752条、民法709条)。
インターネットの記事などで書かれている「不貞慰謝料の相場」は、裁判上のものです。
不貞行為が原因で「離婚する場合」と「離婚しない場合」で相場は異なります。
なお、夫婦間の具体的な事情などで金額の調整がはかられます。
婚姻期間、不貞行為の程度(性行為の回数、期間など)、子どもの有無などが慰謝料額の増減に影響します。
不倫・浮気の慰謝料の相場 | |
---|---|
不倫(浮気)により離婚する場合 | 100万円~300万円 程度 |
離婚せず、別居しない場合 |
数十万円~100万円 程度 |
離婚せず、別居する場合 |
100万円~150万円 程度 |
交渉の中で、最終的には適正金額として落ち着いていくこともあり、最初に提示する慰謝料の請求額は高額であることが多いです。
不貞行為の問題の多くは、慰謝料という金銭問題に置きかえて解決をはかります。
その支払いを求めることから裁判になりやすい問題といえます。
そのため、話し合いの段階でも、裁判上の慰謝料の相場を基準に、支払金額を決めていくことが多いです。
なお、不貞行為が原因で離婚する場合には、離婚協議や離婚調停、離婚裁判といった手続きの中で「離婚慰謝料」として、「不倫をした配偶者」に対して請求することは可能です。
ただ、離婚裁判の中で不倫・浮気相手に離婚慰謝料は請求できません。
不倫・浮気相手への慰謝料請求は、別途おこなう必要があります(裁判例 最高裁判所平成31年2月19日判決)。
不倫された側の配偶者としては、訴訟を起こすことで法廷に相手方を出廷させ、強制的に解決に向けた手続きを進めることができます。
また、勝訴すれば、強制的に財産を差し押さえて慰謝料を獲得することもできます。
(反対に、被告となる不倫をした側は、訴訟提起されることで財産差し押さえのリスクが高まります。)
では、具体的にどのような場合に、裁判手続きになるのかを徹底解説します。
1-1.話し合いができない場合
いきなり裁判になる、ということは少なく、まずは話し合いを求める連絡があることが多いように感じます。
ただ、裁判外でお互いに話し合いができない、話が通じない場合に裁判所の訴訟手続に進むことがあります。
不倫をした側・不倫をされた側それぞれに次の理由があり、話し合いが進まないことが多いです。
- 相手方が連絡を無視する
- 相手方が不貞行為を否定する(支払いを拒否する)
- 相手方が謝罪をしない
- 支払い条件(金額、支払回数、支払時期)に合意できない
- そもそも不貞行為はなかった(相手の認識違い)
- 話が通じない、意見・主張を聞き入れない(一方的な要求ばかり)
- 不貞行為の前から夫婦関係はすでに破たんしていたのに慰謝料を請求された(婚姻関係破綻の抗弁が問題となっているケース)
- 支払い条件(高額な請求、支払いできない)に合意できない
請求する側の配偶者の方は、話が進まない状況に対して感情面で怒りや不安が大きくなるのではないでしょうか。
第三者として弁護士をいれることで具体的に交渉を進めることができ、精神的なご負担を軽減していただくことができます。
請求された側の方は、そもそも慰謝料の支払い義務が無いようなケースや、高額すぎる一方的な請求だからといって対応を無視していると訴訟を起こされる可能性が高くなります。
支払いの条件などで当事者同士では合意にいたることは難しいことがあります。
そのため、速やかに弁護士を入れて適切な解決を目指すことで、訴訟をさけることが可能です。
1-1-1.弁護士から内容証明が届いた(不倫した側)
不倫された配偶者の代理人弁護士から内容証明郵便が届くことがあります。
主な内容は次のことが書かれていることが多いです。
参考│弁護士からの内容証明郵便による不貞慰謝料請求の記載内容
- 慰謝料の請求
・慰謝料額
・支払い期限
・支払先口座情報 - 訴訟手続移行の予告
・慰謝料などの要求に応じない場合、訴訟を提起すること - 不貞関係の清算
・不貞関係の事実の指摘
・不貞関係をすぐにやめること - 今後の連絡先
・今後の連絡は代理人弁護士宛におこなうこと
・本人(依頼者)宛に直接連絡をしないこと
内容証明郵便の中で、要求に応じない場合に訴訟手続をおこなうことが予告されている場合、裁判所の訴訟手続に移行する可能性はかなり高いといえます。
弁護士からの書面が届いたら、速やかに弁護士に相談して今後の対応を検討することが良いでしょう。
1-2.慰謝料支払いの内容に合意できない場合
感情の対立が激しいため、適切な慰謝料額や、支払い条件で合意できないなどの場合には、訴訟に進む可能性が高まります。
1-3.裁判をしない方がいい場合
慰謝料請求は訴訟になりやすい問題ですが、訴訟を避けた方が良い場合があります。
その判断基準も解説します。
1-3-1.不倫された側(証拠がない、不貞慰謝料請求ができる条件を満たさない、無資力)
慰謝料請求をする側の方は、① 「不貞行為」としての条件を満たすのか、② 不貞関係の証拠があるか、③ 相手に慰謝料を支払う能力があるか、を冷静になって具体的に考える必要があります。
つまり、訴訟をおこすためには、慰謝料請求が可能となる条件を満たし、それを証明する十分な証拠が必要になります。
どのような証拠が必要になるのか、くわしくは次のコラムで解説しています。
参照記事
- 不貞慰謝料請求に有利な不倫・浮気の証拠
不倫・浮気の証拠があれば不貞慰謝料請求や、不貞行為を原因とする離婚手続きがスムーズに、有利に進められる可能性が高まります。
どのような内容の証拠が良いのか、証拠をどう集めるのか、証拠収集の際の注意点などについて、弁護士が解説します。
慰謝料請求が可能な前提条件を満たしていても、実際に支払いが受けられなければ訴訟手続をしても費用倒れになります。
このような相手本人の支払い能力に不安がある場合、話し合いの段階で「分割払い」「保証人をつけさせる」など事情に応じた対応をおこなうと良いでしょう。
1-3-2.不倫した側(資力がない)
訴訟で支払いの判決が出た場合、支払いまでの遅延損害金を含めて、一括支払いを命じる内容であることが多いです。
そのため、高額な慰謝料に対して一括支払いが難しい場合でも「支払いが難しい」からと請求を無視するのではなく、不貞の事実がある場合には、適切な慰謝料額で、かつ支払い方法について裁判外で「分割払い」「減額」の交渉をおこなうのが良いでしょう。
また、支払いを命じる判決を受けたのに、支払わずに無視すると、強制執行として給与や預金口座を差し押さえられたりする危険があります。
1-4.不倫した側の訴訟におけるメリット
不倫をしたとして訴えられた被告にも、訴訟による問題解決のメリットはあります。
- 相場に見合わない過大な慰謝料請求を受けている場合
→ 裁判で適切な慰謝料額を判断してもらうことができる。 - 不貞関係になかったことを信じてもらえない場合
→ 不貞行為の有無の判断を受けられる。 - 過失なく不倫相手が独身だと信じて交際していた場合
(身元確認ある独身者限定のお見合いで知り合ったなど)
→ 裁判で適切な慰謝料額を判断してもらうことができる。
しっかりと対応をおこなえば、裁判官による中立な立場による判断を受けることができます。
なお、高額すぎる不適切な慰謝料請求や、不貞行為が無かった場合の慰謝料支払いの義務がないことを裁判所に判断して欲しい場合には「債務不存在確認請求」の裁判を起こすことも可能です。
不倫した側として請求を受け、不安な方は一度当事務所までご相談ください。
今後の対応方法についてアドバイスいたします。
2.裁判の流れ
話合いで双方合意ができず、訴訟に進んだ場合どのような流れになるのでしょうか。
一般的な裁判の流れにそって、解説します。
2-1.訴状の送達と呼び出し
裁判所における訴訟は、慰謝料を請求する側が、訴状と請求内容を裏づける証拠資料を合わせて提出することで手続きが始まります。
これを「訴訟提起」と言います。
訴状は、原告の居住地を管轄する簡易裁判所または地方裁判所に提出します。
参照リンク
- 裁判の管轄区域
裁判所の管轄を確認できます。
慰謝料額が140万円以下の場合は簡易裁判所、140万円を超える場合は地方裁判所に訴訟提起をおこないます。
なお、弁護士に代理人を依頼し訴訟を提起する場合、弁護士費用も請求します(通常は慰謝料の1割程度)。
そのため、慰謝料に弁護士費用を加えた金額が140万円を超える場合、地方裁判所に訴訟提起をおこなうことになります。
訴えを起こした側を「原告」、起こされた側を「被告」と言います。
訴訟提起後に、被告の自宅住所に訴状と裁判所への呼び出し状が送られます。
不倫をした配偶者、その不倫相手の一方または双方に不貞慰謝料請求が可能です。
そのため共同被告として、訴えることもできます。
慰謝料請求を受けた「被告」側の注意点として、次のものがあります。
参考│【被告・請求を受けた側】の注意点
- 裁判の期日は「平日」
(有給休暇、休業をとり出頭する必要がある) - 裁判に出ないと「負け」の判決が出る
(相手主張の内容で支払いが確定) - 自宅に訴状が届く
(同居する身内に知られる。) - 書面提出の必要性がある
(提出期限が設けられている)
訴状が届いた時点で、1回目の裁判が開かれる日時は指定されています。
また、期限までに書面提出をする必要があります。
訴状を無視し、都合が合わないといって裁判所に出ないと、相手の請求を認める内容で判決が出ます(敗訴判決)。
被告敗訴の判決が出ると、財産の差押えなどの不利益を受けるリスクが高まります。
個人での対応が難しい場合には訴状が届いた時点で、すぐに弁護士に相談し今後の対応を検討するのが良いでしょう。
2-2.裁判の期日
裁判が開かれる日を「期日(きじつ)」と言います。
裁判所の期日は、平日の日中に設定されます。
期日は、1か月に1回程度の間隔で開かれます。
2-2-1.第1回目の期日
訴状が届いた時点で、同封されている呼び出し状に最初の第1回目の期日が記載されています。
この指定された日時は容易に変更できません。
なお、被告側は第1回目の期日は、「答弁書」と呼ばれる訴状に対する自分の言い分を書いた書面を提出しておくことで、欠席しても大丈夫です。
原告の主張する内容を認める判決(原告勝訴、被告敗訴の判決)が出ることはありません。
また、お互いに代理人弁護士がついている場合、第1回目の期日では実質的な内容に踏みこんだ主張をおこなうことはなく、次回期日の日程調整をおこなうだけで終わることが多いです。
2回目の期日は、おおよそ1か月後の日程で調整されます。
2-2-2.第2回目以降の期日
2回目以降は、原告・被告の当事者双方が出廷できる日程で調整されます。
なお、弁護士に依頼した場合には出廷も対応してくれるため、原則として本人が裁判所に出る必要がありません。
2回目以降は「弁論準備手続」期日で進行することが多いです。
弁論準備手続は非公開で、主張に関する書面や証拠書面を提出し、争点(争いになっている点)や証拠を整理する手続きです。
争点を整理することから「争点整理手続」と言うこともあります。
書面の提出は、期日の1週間程度前と指示されることがありますので、期限を守って提出します。
また、争点が明確になり、書証も出そろってくると証拠調べが行なわれることがあります。
証拠調べとは、本人尋問(原告・被告当人の尋問)、証人尋問(原告・被告以外の第三者の尋問)等をおこなう手続きです。
不倫裁判では、当事者である原告、被告(不倫をした配偶者とその不倫相手)の当事者尋問が一般的です。
尋問については、このあと説明します。(2-4.尋問(本人尋問、証人尋問))
なお、最近の裁判所は「ウェブ裁判」の整備が進んでいます。
ただ、双方に弁護士がついている、お互いにウェブによる方法を希望しているなど実施条件は限定的です。
また、裁判所から認められれば「電話会議」による進行も可能な場合もあります。
ご自身の居住地から遠い裁判所で訴訟が提起されたとしても、現地への出廷をしなくても済むこともあります。
2-3.和解案の提示
訴訟というと「判決」のイメージが強いと思います。
しかし、実際には裁判手続きの途中で、約4割が「和解」により終了しています。
参考│第20表 第一審通常訴訟既済事件数―終局区分及び審理期間別―全地方裁判所(令和2年度)
終局区分
総 数 122,759
判 決 53,082(43.24%)
和 解 43,365(35.33%)
その他 26,312(21.43%)
主張・反論が出つくした段階で、裁判所から和解を勧められることがあります。
それまでの主張を踏まえて、裁判官が抱いている確信や認識の開示(心証開示)とともに、裁判所から和解案が提示されます。
和解を拒否して、判決を求めることもできます。
原告被告の双方が合意し「裁判上の和解」が成立すると、和解調書が作成されます。
和解調書は確定判決と同じ法的効力があります。
そのため、不貞慰謝料の不払いがあった場合には、和解調書をもって裁判所で預貯金口座や給料の差押えなど強制執行手続をおこなうことができます。
なお、原告・被告ともに和解勧告に応じるメリット・デメリットはあります。
裁判の進行状況をふまえて、「とれるリスクをとって、どのような利益を得るのか」を慎重に検討して判断することになります。
和解勧告の内容がご自身に具体的にどのような影響があるのかについて不安な方は、法的な知識、同じような裁判例についての知識やノウハウを持つ弁護士に代理人を依頼することで、適切でより良い解決を期待できます。
【 原告側 】 裁判所の和解に応じるメリット・デメリット | |
---|---|
和解に応じるメリット |
|
和解に応じるデメリット |
|
【 被告側 】 裁判所の和解に応じるメリット・デメリット | |
---|---|
和解に応じるメリット |
|
和解に応じるデメリット |
|
2-4.尋問(本人尋問、証人尋問)
裁判所からの和解勧告に応じず、判決を求める場合、「尋問」と呼ばれる手続きがおこなわれることがあります。
尋問は、相手を問いつめる手続きではありません。
原告や被告本人、証人を法廷に呼んで、証言した内容を証拠とするための手続きです。
尋問は、双方の主張する事実関係に食い違いがあるなどの場合に、裁判官が最終的に判決を書くにあたって心証を形成するための手続きになります。
なお、尋問前に「陳述書」を証拠として提出することがあります。
陳述書は本人の希望や意思を裁判所に伝えるためのものです。
本人尋問において陳述書を前提におこなうことがあり、尋問で伝えきれない内容を補うもので、証拠にもなります。
裁判所は事情を理解するために、尋問前に陳述書を読んでいます。
そのため、争いのある点、重要なことを中心に、分かりやすく書く必要があります。
弁護士に依頼されている場合、尋問前に弁護士とリハーサル(練習)をおこなうことが多いです。
代理人から受ける主尋問、相手方から受ける反対尋問(想定される質問を準備します)のリハーサルをおこなうことで、尋問当日に落ち着いて受け答えできるように備えます。
弁護士に代理人を依頼している場合、基本的に本人の代わりに裁判所へ出廷します。
しかし、当事者が出廷する「本人尋問」では、本人が裁判所に出向く必要があります。
そのため、相手方と顔を会わせることになり、反対尋問で夫婦関係についての不快な質問を受けることで大きなストレスを感じる可能性は大いにあります。
また、尋問は公開法廷でおこなわれます。
顔も知らない一般の傍聴人がいる中で、プライベートな内容について受け答えします。
こうしたことから、和解勧告を拒否して判決を求める場合には強い気持ちでのぞむ必要があります。
2-5.判決
尋問後に、裁判所から和解提案されることもあります。
しかし、最後まで双方が合意し和解が成立しなければ、最終的に「判決」が言い渡されます。
これにより裁判は終結します。
判決の種類は次のものがあります。
- 請求認容 (原告勝訴。原告の請求すべてを認めるもの)
- 請求一部認容(原告一部勝訴。原告の請求一部を認めるもの)
- 請求棄却 (原告敗訴。原告の請求をすべて不当だとして認めないもの)
なお、判決の言い渡しの日は、出席する必要はありません。
電話で判決内容を確認することが可能です。
①、②は原告の請求を認める内容になります。
判決が確定すると、被告である不倫した方はすみやかに慰謝料を支払わなければなりません。
なお、請求額に支払いまでの遅延損害金を加えたものを支払うため請求金額よりも多くなります。
判決内容に不服がある場合、判決受領から2週間以内に控訴する必要があります。
控訴は、判決が出された裁判所に対して控訴状を提出しておこないます。
控訴することで、一審が簡易裁判所の場合は地方裁判所、地方裁判所の場合には高等裁判所で、あらためて審理を経て裁判所の判断を受けることができます。
3.裁判にかかる期間
裁判にかかる期間は、金銭の支払いを求める裁判(その他の損害賠償)で「約11か月」となっており、1年程度を目安として考えておくと良いでしょう(参照情報 地方裁判所における民事第一審訴訟事件の概況及び実情)。
なお、判決後に相手が慰謝料を支払わない場合、その回収のために強制執行手続をおこないます。
預金の差押えは一度の手続きで一回限りですが、給与の差押えは全額を回収できるまで差押えが継続します。
そのため裁判所の強制執行手続の期間は差押え対象によって異なります。
4.裁判の費用
裁判所の訴訟にかかる費用は、① 裁判所に納める費用、② 弁護士費用(弁護士に依頼する場合)が必要です。
4-1.裁判所に納める訴訟費用(裁判費用)
裁判所に納める訴訟費用は、① 訴額(請求金額)に応じた「収入印紙」代、② 相手方への訴状や書類の郵送などに使用される「予納郵券」代になります。
参考│印紙代の早見表(不貞慰謝料請求額に対応する印紙代の目安)
訴額(請求額) | 印紙代 |
---|---|
50万円 | 5,000円 |
100万円 |
10,000円 |
150万円 | 13,000円 |
300万円 |
20,000円 |
予納郵券代は、裁判所により異なります。
おおよそ1万円以下で足りる金額です。
参考│予納郵券の目安
6,000円分 (内訳 500円× 8枚/100円×10枚/84円× 5枚/50円× 4枚/20円×10枚/10円×10枚/5円×10枚/2円×10枚/1円×10枚) ※ 原告、被告が各1名の場合
▼ 大阪地方裁判所
5,000円分 (内訳 500円× 7枚/100円×7枚/84円× 5枚/20円×10枚/10円×10枚/5円×10枚/2円×10枚/1円×10枚) ※ 原告、被告が各1名の場合
4-2.弁護士費用
弁護士費用は、各法律事務所によって異なります。
おおよそ、① 着手金(依頼時点でかかる費用)、② 報酬金(成功の程度によって支払う費用)、③ 日当(遠方の裁判所への出廷などの出張費用)、④ 実費(書類の取寄せ費用や郵便切手代など)です。
費用だけを比較するのではなく、支払った費用でどこまでの活動をしてくれるのかを確認しておきましょう。
見た目の費用は安くても、「代理で裁判所に出るのは3回まで。それを超えると追加費用が必要。」など、追加費用を請求されることがあります。
当初の見積もり金額よりも、最終的な費用が大幅に増える場合もあるので注意が必要です。
なお、弁護士に依頼した場合でも、ウェブ裁判の利用が拡大し、また電話会議などの方法を利用することで、日当(出張費)を抑えることができるようになってきました。
古山綜合法律事務所では、事前のお見積りも可能ですのでお気軽にお問い合わせください。
5.裁判手続き、5つの注意点
不倫慰謝料請求の裁判手続きで、請求する側(不倫された側)、請求された側(不倫した側)において注意すべき点を解説します。
5-1.他人に知られる(公開裁判、訴状が届く)
家族や知人に、不貞慰謝料のトラブルを知られる可能性があります。
先ほども説明しましたが、裁判は公開が原則です。
被告の住所地に訴状などの裁判書類が届くため、家族に裁判されたことを知られる可能性があります。
なお、インターネットに裁判内容が掲載されることはありません。
また、裁判所に当日に開かれる裁判情報が記載された開廷表が置かれていますが、住所などの個人情報は開示されません。
5-1-1.【不倫した側】 裁判前に示談する
裁判にしないためには、示談での和解を目指します。
なお、弁護士に代理人を依頼している場合、訴状副本の送達先を代理人弁護士事務所宛てとすることもできる場合があります。(代理人である弁護士事務所が裁判書類の送付先になり、ご家族などへの不倫発覚のリスクを減らすことができます。)
具体的には相手方に代理人として弁護士がついている場合で、「訴訟を起こされる場合、訴状(副本)の送達先を当職宛としてもらいたい」と伝えておくと、たいていの場合、相手方代理人は裁判所へその旨連絡してくれます(訴状に送達先として、代理人である弁護士事務所を指定して記載)。
そして、訴状の送達前に裁判所から当方へ連絡がきます。
なお、訴状を受け取り、代理人弁護士が裁判所に委任状を提出することで、訴状受け取り後の裁判所からの書面も自宅には届かないようになります。
5-2.手続きの負担(費用と出廷)
裁判手続きの負担は時間的、経済的な負担があります。
裁判所の開廷日は平日の日中のみです。
仕事を休むなど都合をつける必要があります。
また、書面作成や証拠の提出や、弁護士に依頼した場合の費用などの負担もあります。
話し合いであれば、柔軟な交渉(電話、手紙、メールなど)が可能です。
また、相手に対して一定の譲歩が必要になることもありますが、時間のかかる訴訟よりも早期解決できる場合もあります。
5-3.支払いリスク(支払い能力の確認と一括払い)
慰謝料の支払いを裁判で求めていく場合、支払いに関するリスクがあります。
次のようなリスクが大きい場合には、話し合いで解決をはかっていくことが良いかもしれません。
5-3-1.【不倫された側】 支払い能力の確認
損害賠償請求をおこなう目的は、慰謝料を支払わせることで、相手方に不貞行為に対する責任を取らせることです。
また、不倫した者同士が今後、近づかないようにするためにおこなうこともあります。
しかし、相手に支払い能力がなければ、訴訟をしても意味がありません。
原告の費用倒れになってしまいます。
不倫相手に慰謝料の支払い能力があるかを確認する必要があります。
仕事はしているのか、持ち家なのかなど一定の財産調査をおこなっていくことが望ましいです。
なお、強制執行時には財産を特定していることが必要です。
預金口座はどこか、勤務先はどこか(給与の差押え)などの財産調査も大変な手間がかかります。
5-3-2.【不倫した側】 一括払い、強制執行のリスク
他方、被告にとって訴訟を起こされるリスクは、負けの判決が出ることで高額な支払いを求められることです。
また、判決通りに支払いをしない場合、給与や預貯金口座の差押えを受ける可能性があります。
給与の差押えについては、裁判所から会社(職場)に通知がいくため、事情を知られる可能性があります。
5-4.立証責任は権利主張する側(証拠が必要)
裁判所の訴訟では、十分な証拠が重要になります。
裁判手続きでは、権利を主張する側に証明責任があります。
慰謝料請求する原告側に法律上の不法行為(貞操義務違反、平穏な婚姻生活の侵害)があったことや、不貞行為により平穏で円満な婚姻関係が破たんし精神的苦痛を受けたことを証明する責任があります。
不貞慰謝料請求では、肉体関係をうかがわせるラブホテルの出入りや性交渉の画像や動画、LINEなどSNSメッセージのやり取り、探偵事務所による調査報告書などの証拠集めが大切です。
裁判に有効な証拠は何か、どう集めるのかについては次の記事で紹介しています。
関連記事
- 不貞慰謝料請求に有利な不倫・浮気の証拠
不倫・浮気の証拠があれば不貞慰謝料請求や、不貞行為を原因とする離婚手続きがスムーズに、有利に進められる可能性が高まります。
どのような内容の証拠が良いのか、証拠の集め方、証拠収集の際の注意点などについて、弁護士が解説します。
5-5.適切な慰謝料にするための対応(適切な慰謝料額)
納得できる結果を得るために、適切な慰謝料額の検討は大切です。
不倫された配偶者にとって、裁判上の慰謝料の相場をベースに、増額できるポイント(不貞行為の程度)を加味しながら慰謝料額を検討します。
離婚される場合には、確実に慰謝料を支払わせるために請求相手を配偶者と不倫相手としても良いでしょう。
他方で、不倫した配偶者、不倫相手は高額な慰謝料を請求されることが多いため、適正な金額への減額、支払い条件(分割払い)の交渉をおこないます。
交渉では、「婚姻関係はすでに破たんしていて夫婦の平穏な生活の侵害はなかった」「既婚者と知らなかった(知ることもできなかった。故意・過失はなかった。)」「結婚していると知った時点で不倫関係を解消した」などの反論をおこなうことで、慰謝料の支払いを拒否・減額のための対処をおこなっていきます。
6.まとめ
不貞慰謝料請求の問題を裁判で解決するには、手続きに関するさまざまな対応や精神的な負担は大きいものです。
「妥当な慰謝料額はいくらか分からない」
「感情的になり、当事者間で話し合いにならない」
などの状況があれば、古山綜合法律事務所までご相談ください。
不倫問題・男女トラブルの悩みについて、初回無料相談をおこなっています。
お気持ちをふまえながら、適切な慰謝料額はいくらか、解決策などについて具体的にアドバイスさせていただきます。
また、不倫を原因とする離婚問題についても対応しています。
お子さまの親権、養育費、面会交流から財産分与の対処方法まで相談料無料でご相談いただけます。
離婚・男女問題の解決を得意とする当事務所まで、ぜひお気軽にお問合せください。