症状固定とは
症状固定とは「傷病に対して行われる医学上一般に承認された治療方法をもってしても、その効果が期待し得ない状態で、かつ、残存する症状が、自然的経緯によって到達すると認められる最終の状態」と説明されます。大まかに言うと「これ以上治療しても症状の改善が見込めない状態」です。
症状固定日より後の治療費や入通院慰謝料などは、原則として賠償金の対象外です。
そのため、「症状固定日がいつか」というのは賠償金の請求において重要なポイントになります。
症状固定の判断
それでは、症状固定日は誰が決めるのでしょうか。
加害者の保険会社がよく治療費の打ち切りをするので、保険会社が症状固定日を決めるものだと被害者が考えていることも多いですが、それは誤解です。
症状固定の判断は医師
症状固定日がいつなのかは、主治医の判断が尊重されます。
加害者の保険会社が決められるわけではありません。したがって、保険会社から「そろそろ症状固定ではないか。」と促されても、主治医がさらに治療が必要と判断すれば、症状固定でないとして入通院を継続するのが基本です。
ただ、症状固定日は賠償金の算定に利用される概念なので、医学的な概念ではありません。そのため、症状固定日は主治医の判断が尊重されるものの、裁判で無条件に主治医の意見が認められるというわけではありません。なので、加害者の保険会社が、主治医の判断した症状固定日を争ってくるケースもよく見られます。
交通事故で多い傷病や症状について、症状固定時期の目安を解説します。
むちうち
「むちうち(むちうち損傷)」は、事故による衝撃の大きさ(むちうちは事故の衝撃により首がムチのようにしなるほどの負担を受け、首の軟部組織(靭帯や関節包など)が損傷したことによって起こります。事故の衝撃が小さいと首の軟部組織の損傷の程度も小さいと判断されがちです。)や通院頻度、症状経過などが主な判断要素です。事故から数か月~1年程度で症状固定と判断されるケースが多いです。
なお、一定以上の通院期間がないと、後遺障害等級のうち14級9号の認定を受けにくいとされています。
骨折
骨折では、骨癒合(骨がくっつくこと)した後、リハビリするのが一般的です。 骨癒合までの期間は、骨折の部位や個人差によって異なりますが、概ね2~4か月と考えられます。 骨癒合して疼痛(「とうつう」。痛みのこと)や関節の可動域制限(関節の動く範囲が狭くなること)がなければ経過観察して事故から6か月程度が目安となりますが、これらがある場合は事故から6か月~1年程度が目安になるでしょう。
もっとも、プレートの取付け・取外しにそれぞれ手術をするなど、場合によっては事故から1年6か月ほどかかることもあります。
高次脳機能障害
高次脳機能障害は、症状に合わせたリハビリが基本となり、発症から1年程度までが大きな改善を期待できる時期とされています。 なので、事故から1年程度が目安となります。 高次脳機能障害は被害者本人も医師も見落とすことのある「見過ごされやすい障害」ですが、早期のリハビリ開始が重要です。
なお、高次脳機能障害による慰謝料請求については、次のページで詳しく解説しています。
症状固定の注意点
症状固定と判断されたことによる今後の治療や賠償金への影響について、ご説明します。
症状固定後は賠償金の対象にならない損害項目
症状固定と判断されると、これ以後の治療費は加害者の保険会社に請求できないのが原則です。もちろん、これまで医療機関へ治療費が直接支払われていた場合はこの支払いも終了します。
また、治療費のほか、仕事や家事を休むなどしたことによる「休業損害」、入通院中に関する慰謝料である「傷害慰謝料(入通院慰謝料)」、親族などが入通院に付き添ったことによる「付添い看護費」や、入通院のための交通費(「入院交通費」「通院交通費」)、入院中における日用品などの購入費である「入院雑費」なども、症状固定後は請求できなくなります。
治療継続をしたい場合
症状固定となると治療費を加害者の保険会社へ請求することはできなくなりますが、治療自体を続けることは可能です。この場合、ご自身の健康保険を利用して、自費で治療を継続します。
なお、症状固定後の治療費が認められた裁判例もありますが、あくまで例外です。まずは適切な後遺障害の等級認定を受けて、今後の生活や治療のため、慰謝料などの賠償金をしっかり獲得できるよう交渉していくのがよいでしょう。
賠償請求権の消滅時効に注意
交通事故の賠償金の請求権には時効があります。そして、賠償金の内容によって、時効までの期間が異なることに注意が必要です。
後遺障害に関する賠償金の時効は、症状固定日の翌日から5年間です。
症状固定前に弁護士相談
加害者の保険会社から治療費の打切りを通告されたり、主治医から「そろそろ症状固定である。」と言われたことをきっかけに、当事務所へご相談に来られる方も多いです。
保険会社から症状固定とするよう促されたりしても、主治医が治療を続けるべきとの意見であれば、健康保険を利用して通院を継続するのが基本です。
その場合、治療費や通院交通費はいったん被害者が負担しますが、示談交渉の際に保険会社へ請求します。
また、主治医が症状固定との意見を示したときは、そのように判断した根拠を尋ねるなどして検討・判断することになります。
症状固定後の手続
症状固定と判断されて後遺症があるときの手続を解説します。
後遺障害の有無の判断
もし症状固定でなく治癒(治療によって症状がなくなったこと)したときは、後遺障害の等級認定に関する手続はありません(後遺症がないので、認定申請しても等級は認められません。)。そのまま加害者の保険会社との示談交渉を始めます。
後遺障害の等級認定は、症状固定、すなわち後遺症が残った場合に申請します。
ですが、後遺障害の等級にはそれぞれ基準があり、いずれの等級の基準も満たしていないときは申請しても「非該当」(後遺障害等級に該当しない)とされますので、そのような場合は等級認定の申請をせず、保険会社との示談交渉に入ることになります。
後遺障害診断書の作成
入通院しても症状が残り、その後遺症が後遺障害等級に該当する可能性があるときは、認定申請の手続をおこないます。
後遺障害等級が認定されると、後遺障害逸失利益(労働能力の低下による将来の収入の減少という損害)や後遺障害慰謝料(後遺障害が残存したことによる精神的損害)を請求することができます。
後遺障害等級認定手続
後遺障害等級の認定手続は、① 加害者の保険会社に任せる(事前認定)、② ご自身で行う(被害者請求)、という2つの方法があります。後遺症が後遺障害等級の基準に該当するかの判断は、損害保険料率算出機構という機関がおこないます。
審査は書面により行われるが基本で、面談での聞き取りなどはありません。
必要書類の準備
主治医に「後遺障害診断書」の作成を依頼します。
後遺症ごとに入通院先の医療機関や診断していた医師が異なる場合は、それぞれ後遺障害診断書を作成してもらうことになります。
後遺障害診断書は、書面審査である後遺障害の等級認定において重要な書類です。ご自身の自覚している症状や検査結果などが、漏れなく正確に記載されている必要があります。
医師は治療が本来の業務であって、交通事故の賠償請求について知識はほとんどありません。そのため、後遺障害診断書の記載に誤りがあったり、後遺障害等級の認定に必要な検査が行われていないケースもしばしばあります。
患者である被害者は、主治医に後遺障害診断書の作成を依頼する際に記載してほしい内容を丁寧に説明し、主治医から後遺障害診断書を受け取った際に記載内容に漏れや間違いがないか確認する必要があるのです。
被害者も後遺障害等級に関する知識が不十分なために主治医にきちんと説明できない、主治医に気を遣って被害者が意見を述べることができないなど、後遺障害診断書の作成をお願いする際、主治医とのコミュニケーションでつまづいてしまう被害者は案外多いです。 当事務所は、後遺障害診断書のチェックはもちろん、主治医とのコミュニケーションについてもサポートしています。
後遺障害等級認定手続の必要書類(代表的なもの)
必要書類名 | 作成者・取寄先 |
---|---|
自賠責保険支払請求書兼支払指図書 | 被害者(請求者) |
後遺障害診断書 | 医師 |
交通事故証明書 | 自動車安全運転センター |
事故発生状況報告書 | 被害者(請求者) |
診断書 | 医師 |
診療報酬明細書 | 医療機関 |
事前認定(保険会社に任せる)
後遺障害等級の認定手続を加害者の保険会社に任せる方法があります。これを事前認定と言います。
被害者は保険会社の指示によって書類を取り付けるだけですので、手続の負担は軽いと言えます。
後遺障害等級非該当ではなく等級が認められる、またはより高い等級が認められることによって保険会社の賠償額が上がります。そのため、加害者側の保険会社が被害者の適切な等級認定を獲得できるように提出書類のチェックや適切な資料の追加などを期待できるか疑問があります。
さらに、被害者が申請する場合と異なり、保険会社との示談が成立するまで、後遺障害等級の認定に伴う自賠責保険金を受け取ることができないというデメリットがあります。
被害者請求(自身でおこなう)
被害者が後遺障害等級の認定手続を行う方法があります。これを被害者請求と言います。
ご自身で自賠責保険へ書類一式を提出するので手続の負担感はありますが、提出書類に問題のある場合に対応できる上、有効だと思われる資料の追加などもできるため、適切な後遺障害等級を獲得できる可能性が高まります。
さらに、後遺障害等級が認定された場合、等級認定に伴う自賠責保険金を保険会社との示談に関係なく受け取ることができる点でもメリットが大きいと言えます。
また、弁護士に依頼すると、弁護士が被害者に代わって後遺障害等級の認定手続(被害者請求)を行ってくれますので、ご自身の手続の負担は軽くなります。
後遺障害級認定の結果に不満(異議申し立て)
後遺障害等級の認定申請をした結果に不満があるときは、再度申請する(異議申立て)ことも可能です。
異議申立ては何度もできますが、提出書類が同じだと結果は変わりません。
そのため、結果の理由を検討して、主治医の意見書などなんらかの資料を追加する必要があります。
なお、損害保険料率算出機構でなく、一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構という別の機関へ調停申請することもできます。ただ、この申請は1度きりです。
症状固定・後遺障害等級認定手続のサポート
交通事故の被害者とはいえ、加害者の保険会社は親身になって気遣ったり手取り足取り面倒をみるなどということはしません。それは、いわゆる100:0の案件でも同じです。
当事務所にご相談に来られる方で「自分は何も悪くないのに、なぜ保険会社はぞんざいな扱いをしてくるのか。」「自分は被害者なのに、なぜ保険会社からこんな言われ方をしなければならないのか。」などと、保険会社の被害者に対する接し方に大変不満を持たれている場合も少なくありません。「被害者だから」と助けてくれる人はいないのが現実です。
保険会社との治療費打切りの交渉や、後遺障害の等級認定申請など、交通事故の被害者が行うべき手続はとても面倒で、知識や経験が必要となるものばかりです。
古山綜合法律事務所では、適切な後遺障害等級の認定を受けるために必要な、① 治療段階からの継続的なアドバイス、② 主治医とのコミュニケーションのサポート、③ 後遺障害診断書など提出書類のチェック・修正対応、④ 状況に応じた資料の追加、⑤ 認定申請の代行(被害者請求)などをおこなっています。
保険会社との対応や後遺障害等級の認定申請などの負担を大幅に減らすサポートで、日々の生活を安定させませんか。
初回のご相談は無料です。今後の方針を弁護士がアドバイスしますので、お気軽にお問い合わせください。