離婚協議書を公正証書で作成する方法、流れと費用を解説


離婚

執筆者 弁護士 古山 隼也 (こやま しゅんや)


  • 大阪弁護士会所属 登録番号 第47601号

略歴

清風高等学校卒業/大阪市立大学卒業/大阪市役所入庁(平成18年まで勤務)/京都大学法科大学院卒業/古山綜合法律事務所 代表弁護士

講演・メディア出演・著書

朝日放送「キャスト」/弁護士の顔が見える中小企業法律相談ガイド(弁護士協同組合・共著)/滝川中学校 講演「インターネットトラブルにあわないために-トラブル事例を通じて-」


大阪市職員、大阪・京都の法律事務所の勤務経験を活かし、法律サービスの提供を受ける側に立った分かりやすい言葉で説明、丁寧なサポートで、年間100件以上の問題解決をおこなっています。

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公正証書で作成する離婚協議書について解説

公正証書で作成する離婚協議書について解説

 

1.離婚協議で決めること

 



離婚に向けた話し合いの「離婚協議」では、通常は①「離婚の合意」②「お金」③「子ども」のことについて、どうするかを決めていきます。


離婚の合意と、市区町村役所に離婚届の提出により離婚は成立します。
しかし、離婚前に交わした離婚条件が守られず、離婚後にトラブルになるケースがあります。

例えば、離婚の際に未成年(未成熟子:みせいじゅくし)がいる場合、父母間で養育費の支払いを決めることがあります。

令和2年度に実施された協議離婚の調査(「協議離婚に関する実態調結果の概要 」(法務省委託調査研究))によると、離婚後に養育費の支払いが「定期的にあった」「不定期だがあった」と回答した方は、全体の73%でした。

つまり、約4組に1組程度が、養育費の不払いの問題に直面しています。「Q41-2.養育費・面会交流の取り決め後に、実際に支払いや交流はありましたか。また、支払いや交流は続きましたか。1.養育費の支払」)

また、同じく未成熟子との面会交流も離婚後によくトラブルになります。

先ほどの調査によると、面会交流について決めた父母は全体の約7割で、面会交流が途絶えた方は約4割にのぼるとの結果があります。

子供の意思や養育環境の変化(引っ越しなど)により実施が困難になったケースはあるかもしれませんが、半数に近い方は 面会交流が続かずに終わったことになります。

こうした調査研究結果からも養育費の不払いや、面会交流の実施について、離婚後にトラブルになる可能性が高い問題であると言えます。

 

では、こうした離婚後のトラブルを防ぐ方法はあるのでしょうか。


2.離婚協議書は公正証書で作成するべき?

 



協議離婚で合意したあと、口約束だけで済まさず書面(離婚協議書)にしておくことが一般的です。

あとになって、お互いに勘違いや認識の間違いを防ぎ、約束の存在自体を否定されたりしないようにするためです。

さらに、この書面を公証役場で離婚公正証書の形で作成しておくことで、離婚後のトラブルを予防できることがあります。

 

2-1.公正証書とは

 

公正証書は、公証役場の公証人が作成する契約書です。

公証人は、元裁判官・元検察官・元弁護士といった法曹資格をもつ法律の専門家などから任命されます。
また公務員であり、法的にも証拠力の高い公文書です。

そのため、夫婦がお互いに合意した離婚の内容について、公正証書にしておくことで、離婚後にトラブルになった時に、あなたの身を救う可能性があります。

 

2-2.公正証書で作成するメリット


具体例をもとに、離婚公正証書を作成するメリットについて解説します。

 

2-2-1.金銭の不払いにすぐ強制執行できる


もし、養育費などを支払う約束をして、自分たちで離婚協議書を作った場合、あとになって相手が一方的に支払いをやめてしまった時には、まず話し合いにより不払いを解消します。

しかし、相手と話し合いで解決できない時には、裁判手続きを提起して勝訴判決などをもらわなければなりません。


判決などを得たあと、ようやく相手の預貯金や給与などの財産を差し押さえる手続き(強制執行)に移ることになります。


つまり、離婚協議書では、金銭の不払いがあってもすぐに強制執行することはできません。

これに対し、離婚協議書を公正証書で作成し、その中に「一定額の金銭の支払い」についての合意と、「相手配偶者(債務者)が強制執行されることを認める内容(強制執行認諾文言)」を記載すると、相手が不払いを起こしたとき、裁判などをせず、すぐに相手の財産の差押えができるようになります。


私署証書である離婚協議書では、この内容を約束することはできません。
たとえ、金銭の不払い時に強制執行されることを認めた文言を書いた離婚協議書を作成しても、すぐに強制執行をおこなうことはできません。
これは公正証書に認められた、公正証書だけの機能であり効力です。

なお、金銭以外の財産給付の合意については、公正証書によって強制執行することができません。

 

2-2-2.信用力が高く、無効になる可能性が低い


先ほど説明したとおり、公正証書は法律の専門家である公証人が作成するため、法的に有効で証拠力の高い書面で作成することができます。

基本的に、夫婦間で離婚条件をどのように決めるかは自由です。
しかし、法律上無効な内容は公正証書に記載することはできません。
これは、公証人が作成する文書が公文書であり、法律に違反する内容を記載することができないためです。

ただ、言い換えれば、公証人による法的なチェックが入るため安心と言えます。

 

2-2-3.紛失のおそれがない


離婚協議書を自分たちで作ると、ほとんどの場合は自分たちだけで協議書を所持することになるため、紛失してしまうおそれがあります。

離婚協議書は合意内容を記載した非常に重要な証拠ですので、これを紛失してしまうとトラブルが起きたときに適切に対処できなくなってしまうおそれがあります。

これに対し、公正証書で作ると、当事者に正本や謄本が交付されるほか、もしこれらをなくしても申請すれば謄本をもらうことができますので、紛失防止につながります。

 

2-3.公正証書で作成するデメリット

 


公正証書作成のデメリットは、離婚の話し合いの間に立って意見の調整をしてもらえないことです。

あくまで、公証人は夫婦間で合意したもの、確定した離婚条件を、公正証書の形にするものです。
そのため、離婚協議による合意ができていない場合は公正証書を作成することができません。

また、作成の当日には、夫婦2人で公証役場に出向く必要があります。
平日しか開いていないため、勤めている方は休暇をとるなどの負担があります。

ただ、離婚公正証書の作成は、弁護士が代理人となって対応することも可能です。
当事務所でも公証人と事前に離婚条件や必要書類のやりとりや、当日の公証役場での手続きの代行可能です。
ぜひお気軽にお問い合わせください。

 

2-4.公正証書で作成するかの判断


ここまで説明したとおり、離婚協議書を公正証書で作成すると大きなメリットがあります。

その中でも、養育費など金銭の支払いを受ける側にとって、不払いのときすぐに強制執行できる(相手はそのプレッシャーから支払いをやめにくい)という点は非常にメリットが大きいといえます。

これに対し、合意後に金銭の支払いを予定していない場合や、養育費を支払う側のときは、「不払いのときにすぐ簡単に強制執行できる」というメリットを受けません。

金銭を支払うなど負担を負う配偶者側にとって、あとで合意の存在や内容を争われるおそれがないときは、信用性の高い離婚協議書は必要ない(さらに離婚協議書を紛失しても困らない)ため、わざわざ手間や費用をかけてまで公正証書にする理由がないことになります。
そのため、公正証書作成に同意しないというのも考え方の一つです。

また、自分たちで離婚協議書を作る場合と比べて公正証書にするほうが時間はかかりますので、一刻も早く離婚したいときは公正証書がよいと限りません。

多くの場合は離婚協議書を公正証書で作るほうがよいでしょう。
しかし、どんな内容であっても当てはまるわけではなく、公正証書のメリットと、手間や時間、費用といったデメリットを天秤にかけて、公正証書をつくる必要がないという結論もありえることに注意しましょう。


3.離婚公正証書の作り方




離婚協議書を、公証役場で作るための流れなどについて解説します。

3-1.離婚公正証書作成の流れ


公証役場とのやり取り、当日作成までの手順は次のとおりです。

 

公証役場でする離婚公正証書作成の流れ

離婚協議の合意内容をまとめる

公証役場に申込み
  • 打合せ日を決める
  • 必要書類を確認する

打合せ当日
  • 必要書類を持参
  • 合意内容を伝え、質問に答える

打合せは1人でもかまいません。


公正証書作成日の予約
  • 作成手数料の案内


公正証書作成当日
  • 公証役場へ当事者双方で訪問
  • 内容確認し署名捺印
  • 原本は公証役場保管
  • 公証人手数料の支払い
  • 公正証書の正本・謄本の受領

 


 

3-1-1.離婚協議の合意内容をまとめる

 

離婚協議で合意した内容をメモ書きにしてまとめます。

もちろん、離婚協議書の形にまとめておいてもかまいません。

 

3-1-2.公証役場に申込み


お近くの公証役場へ、離婚公正証書の作成を申し込み、公証人との打合せ日時を調整します。

 

なお、離婚公正証書作成の当日は、原則として夫婦2人で公証役場に訪問する必要がありますが、打ち合わせ時は、夫婦の一方のみでもかまいません。

 

なお、公証役場は全国の都道府県に285役場があります。

お近くで、訪問しやすいところで探すと良いでしょう。

参照リンク

 

 

また、離婚公正証書作成のための必要書類の指示があります。

打合せ当日までに揃えるようにします。


主に、次の必要書類を用意します。

参考 離婚公正証書作成の必要書類 

1.夫婦双方の身分証(本人確認書類)
 ①から2種類、または①②から1種類ずつ
  ① ☑ 印鑑登録証明書(発行後3か月以内)+実印
    ☑ 自動車運転免許証+認印
    ☑ パスポート+認印
    ☑ マイナンバーカード+認印
    ☑ 住民基本台帳カード+認印
    ☑ 身体障害者手帳+認印
    ☑ 在留カード(外国人登録証明書)+認印
    ☑ 特別永住者証明書+認印
  ② ☑ 顔写真のない身分証明書
     ・健康保険被保険者証など

2.戸籍謄本
 ・未成年の子の養育費がある場合、夫婦間の子と分かる戸籍謄本
 ・養育費がない場合、夫婦であったことが分かる戸籍謄本

3.登記事項証明書、固定資産評価証明書
 ・離婚時の財産分与に不動産が含まれる場合

4.年金分割のための情報通知書、年金手帳等(基礎年金番号のわかるもの)
 ・離婚に際して年金分割をおこなう場合

5.そのほか公証人から指示された必要書類


必要書類について打ち合わせ時はコピーでもかまいません。

なお、場合によっては公証人が離婚公正証書作成の下書きをするために、打ち合わせ前に一部資料の提出を求められることがあります。
この場合、郵送やFAXでやり取りをすることがあります。

 

3-1-3.打合せ当日


必要書類を持参し、公証人と打合せをします。
くり返しになりますが、打ち合わせ時は夫婦のうちお一人だけでもかまいません。

必要書類がそろわなくても、あとから郵送、持参、FAXなどでやり取りできる場合がありますので、事前に公証人に連絡、確認をしておくようにしましょう。

 

3-1-4.公証証書作成日の予約


必要書類が揃い提出したのち、公証人において作成準備ができれば、作成手数料の連絡があります。
公証役場に訪問する日時を調整します。

なお、作成日当日は、原則として夫婦二人が揃って訪問する必要があります。

弁護士に代理人を依頼して、離婚公正証書作成すべてを任せることもできます。
この場合、打ち合わせから作成当日の公証役場の対応まで、あなたの代わりにおこないます。

 

3-1-5.公正証書作成当日(公正証書の完成)


公証人手数料は作成日当日に支払いますので、現金など必ず準備しておきましょう。

なお、公証役場の支払い方法に令和4年4月1日からクレジットカード決済も加わりました。
公証人の手数料の支払いについて可能になりましたが、印紙代など一部料金については決済できず、現金による支払いとなるため注意が必要です。

なお、作成にかかる費用分担をどのようにするか、夫婦で話し合いを済ませておきます。
費用負担を折半する場合には、事前に公証人に連絡しておきます。

当日に公証人が作成内容を確認し、それぞれ署名、捺印しますので印鑑も忘れずに持参します。
離婚公正証書が完成すると、原本は公証役場で保管され、その写しである正本・謄本を夫婦それぞれが受領します。

 

3-2.離婚公正証書の記載内容(公証人は当事者の仲介しない)


離婚公正証書作成のために、離婚の合意、離婚条件を決めておくことが必要です。

離婚内容は契約と同じで、原則として双方が自由に決めることができます。
お互いに合意さえできれば、違法な内容などでない限り協議内容は有効に成立します。

離婚条件については、公正証書作成の事前準備として、次の項目を話し合い決めておくと作成がスムーズです。

離婚公正証書に記載することが多い条項は次のとおりです。

離婚公正証書の条項
  1. 離婚の合意
  2. 親権者と監護権者(子と一緒に生活をして世話をする人)の定め
  3. 養育費(未成年の子)
  4. 面会交流(未成年の子との面談)
  5. 離婚慰謝料(離婚原因を作ったものが支払う損害賠償金)
  6. 財産分与(夫婦共有財産の分配)
  7. 住所変更等の通知義務
  8. 清算条項
  9. 強制執行認諾(金銭の支払いを怠った際の強制執行)


では、離婚公正証書の上記の各条項についてくわしく解説します。

3-2-1.お金のこと


公正証書の最大のメリットは、金銭の支払いの合意と、強制執行を認める内容を公正証書に記載しておくことで、裁判することなく相手の財産を差し押さえることができることです。

そのため、お金の支払いについては具体的に決めておくことがポイントです。

財産分与
婚姻期間中に夫婦が協力して築いた共有財産は、原則として2分の1で分配します。
財産分与には慰謝料的な要素を含めたり、離婚後の生活の支援金として財産を多めに分配する場合もあります。

離婚を前提とした別居があった場合、別居時点までが財産分与の対象となります。
また、結婚前に保有していた個人の財産(特有財産)は財産分与の対象外です。

財産分与の内容について、現金は「金額」「いつまでに支払うか」「一括払いか分割払いか」、不動産は誰がどの「物件」を取得するのかなどを決めておきます。

なお、婚姻生活維持のためにした自宅購入のための住宅ローン、子供のための教育ローンなどの借金が、資産(プラスの財産)を上回っているような場合には、財産分与は発生しないとされています。
当然ですが、婚姻期間中に個人のために借り入れた借金は、個人が返済をおこないます。

財産分与に対して、原則として贈与税や所得税は課税されません。
しかし、婚姻中に築いた共有財産の分配の範囲を超えるような場合、課税の対象になる可能性があります。

参照 離婚公正証書の財産分与の条項(現金)

第〇条 甲は、乙に対し、本件離婚による財産分与として、甲名義の預金(三菱UFJ銀行〇〇支店 口座〇〇〇〇〇〇〇)金〇〇〇万円のうち、 金〇〇万円の支払い義務 があることを認め、これを令和〇年〇月〇日限り、乙の指定する金融機関の預金口座に振り込んで支払う。振込手数料は甲の負担とする。

参照 離婚公正証書の財産分与の条項(不動産)

第〇条 乙は甲に対し、下記土地建物につき、財産分与を原因とする所有権移転登記手続きをする。登記費用は甲の負担とする。

[不動産の表示]
1 土地の表示
 所在
 地番
 地目
 地積
2 建物の表示
 所在
 家屋番号
 種類
 構造
 床面積



 

離婚慰謝料
婚姻中のDV・モラハラ、不貞行為(不倫)など離婚原因を作った相手方配偶者に請求することができます。

慰謝料について明確な基準はありません。
離婚協議では、お互いに合意した金額が慰謝料額となります。

なお、不倫・浮気による不貞慰謝料請求は、裁判上次のような基準があります。
不貞慰謝料の裁判上の相場 ( 裁判で積み重ねられた基準 )
不倫(浮気)により離婚する場合 100万円~300万円 程度
離婚せず、別居しない場合

50万円~100万円 程度

離婚せず、別居する場合

100万円~150万円 程度


慰謝料の合意内容として、次の点を具体的に決めておきます。

 

  • 金額
  • 支払期日 (いつまでに支払うか)
  • 支払方法 (一括払いか分割払いか)

参照 離婚公正証書の慰謝料の条項(分割払い)

第〇条 甲は、乙に対し、本件離婚による慰謝料として金○○万円の支払義務があることを認め、これを〇〇回に分割して、令和〇年〇月から令和〇年〇月まで、毎月末日限り金〇万円を、乙の指定する金融機関の預金口座に振り込んで支払う。振込手数料は甲の負担とする。



 

年金分割
婚姻中の厚生年金の保険料の納付記録(納付実績)を分割する制度です。
年金そのものを分割するものではありません。

ただ、この年金分割制度を利用することで、年金受給額に加算されるため将来的に大切な収入確保につながります。

年金分割の割合は、法律上一定の範囲(上限50%)に限られています。

なお、年金分割の手続きは、離婚した日の翌日から2年以内に日本年金機構(年金事務所)に対して年金分割請求手続きをおこなうことが必要です。
原則、2年を経過すると請求する権利が消滅するので注意してください。
年金の仕組みは複雑で難しいため、将来受け取れる年金額の確認と合わせて、年金事務所に事前に相談に行くのも良いかもしれません。

参照 離婚公正証書の年金分割の条項

第〇条 甲(第1号改定者)及び乙(第2号改定者)は厚生労働大臣に対し、厚生年金分割の対象期間に係る被保険者期間の標準報酬の改定又は決定の請求をすること及び請求すべき按分割合を0.5とする旨合意した。

甲(昭和〇〇年〇月〇日生) 基礎年金番号 〇〇〇〇〇〇〇
乙(昭和〇〇年〇月〇日生) 基礎年金番号 〇〇〇〇〇〇〇

2 乙は、離婚届提出後2箇月以内に厚生労働大臣に対し、合意内容を記載した公正証書の謄本を提出して当該請求をおこなう。


年金分割の方法は、離婚公正証書の中で合意する以外に、年金分割の合意書に公証人の認証(私文書の証明押印などが本人のものであることを公証人が証明する)を受けて提出するか、夫婦双方が年金事務所の窓口で合意書を提出するなどしておこなうことができます。

 

負債(住宅ローンなど)
負債についても、取り決めをしておくことができます。

参照 離婚公正証書の連帯債務・連帯保証の解消の条項

第〇条 甲は、乙に対し、本件不動産に設定された抵当権の被担保債権について、乙を連帯債務者(または連帯保証人)からはずすよう金融機関と交渉することを約する。

※ 甲が自宅を取得することを前提とした条項です。



 

婚姻費用
離婚前に別居をする場合、生活費(婚姻費用)を相手方配偶者に請求することができます。

夫婦には扶養義務があり、収入の低い配偶者から高い配偶者に対して婚姻費用を請求します。
そのため収入がない専業主婦(主夫)でも、別居をしながら離婚手続きを進めていくことができます。

婚姻費用の未払いがある場合、離婚時に精算することも可能です。

 

3-2-2.子供のこと

 

離婚公正証書に、未成年(未成熟子)に関する取り決めについても記載することができます。

親権者
未成年の子どもがいる場合、離婚届出に親権者を記載しなければなりません。

親権には、身の回りの世話をする「身上監護権(しんじょうかんごけん)」や、財産行為をおこなう「財産管理権」が含まれています。
この権利を父母間で分けて持つことも可能ですが、実務上どちらか一方側を指定することがほとんどです。

離婚の合意、親権者について取り決めをした際の公正証書の文例は次のとおりです。

参照 離婚公正証書の親権者の条項

第〇条 夫〇〇〇〇(以下「甲」という。)と妻〇〇〇〇(以下「乙」という。)とは、甲乙間の未成年の長男〇〇〇〇(令和〇年〇月〇日生)及び長女○○○○(令和〇年〇月〇日生)の親権者を母である乙と定め、乙において監護養育することとして、協議離婚する(以下「本件離婚」という。)こと並びに離婚届に署名押印の上、その届出を乙に託し、乙は、その届出を速やかに行うことを合意し、かつ、本件離婚に伴う給付等について、次のとおり合意 した。




養育費
養育費は、監護養育している親(監護親(かんごしん))が、監護していない親(非監護親)に対して、毎月一定額の金銭の支払いを請求するものです。

なお、未成熟子本人も、父母に対して養育費を請求することも可能です。

参照 離婚公正証書の養育費の条項

第〇条 甲は、乙に対し、長男及び長女(以下「子供たち」という。)の養育費として、 令和〇年〇月から子供たちがそれぞれ満22歳に達した後最初に到来する3月まで、各人につき1か月金5万円ずつの支払義務があることを認め、これを毎月10日までに乙の指定する金融機関の口座に振込み支払う。振込手数料は、甲の負担とする。


離婚前に養育費について取り決めした人は全体の44.5% です。(令和2年度「協議離婚に関する実態調結果の概要 」(法務省委託調査研究))
その他は、家庭裁判所の調停手続きなどで決められています。(リンク )

養育費の支払いと、後で説明する「強制執行を承諾する」文言を記載した公正証書で作成しておけば、その不払いの時に、裁判をせずとも財産を差し押さえることができます。

なお、公証人は養育費の算定をしてくれません。
養育費の毎月の支払い額の相場は、下記の家庭裁判所の算定基準を参考に、個別の事情を踏まえて父母間で決めることが一般的です。
参照 | 家庭裁判所 養育費・婚姻費用算定表
 「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について
 
 ページタイトルは平成30年度となっていますが、最新の令和元年版です。
 なお、子の人数、年齢別での具体的な養育費の算定表は次のように分かれています。

 子1人 │ 14歳以下
 子1人 │ 15歳以上
 子2人 │ 全員14歳以下
 子2人 │ 第1子15歳以上、第2子14歳以下
 子2人 │ 全員15歳以上
 子3人 │ 全員14歳以下
 子3人 │ 第1子15歳以上、第2子及び第3子14歳以下
 子3人 │ 第1子及び第2子15歳以上、第3子14歳以下
 子3人 │ 全員15歳以上

基本的には、子供のための生活費を具体的に計算し、両親の収入の割合で案分して、養育費を支払い金額を決めることになります。

子供が大学院や専門学校などへ進学や病気・入院した場合の特別の費用や、物価の変動や失職などによる収入の増減などの事情の変更による増減があったときに、その費用負担や支払額の増減について当事者が協議することを内容とする取り交わしも可能です。

養育費の額や支払い方法の変更について当事者で話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所の調停手続きによる解決を検討します。

なお、非監護者である親が養育費の支払い契約に応じない場合にも、調停手続きによる解決を検討します。


面会交流
面会交流は子供にとっての権利です。

夫婦相互に感情的な対立があったとしても、同居していない親からの要求があった場合には、子供が幸せに健やかに成長するためのものと考え、原則として応じるのが良いでしょう。

子供の福祉に十分に配慮したうえで決めましょう。

参照 離婚公正証書の面会交流の条項

第〇条 乙は甲に対し、甲が毎月1回程度、子供たちと面会交流をすることを認容する。
ただし、面会交流の日時、場所、方法は、子供たちの福祉を害することがないように甲乙互いに配慮し協議のうえ決定する。


なお、面会交流の内容を決めるにあたり、① 面会交流の頻度、② 時間、③方法(直接面会、オンライン、手紙・メールなど)、④ 子供の学校行事への参加可否、⑤ 夏休み等宿泊をともなう面会可否 、⑥ 子供の受け渡し方法、⑦ 当日の連絡方法、⑧ 面会交流にかかる費用負担(面会交流サポートをおこなう第三者機関の利用料、交通費など)などを話し合います。

3-2-3.その他


お金、子供のこと以外で、離婚公正証書に記載する条項について解説します。


連絡先の通知義務
養育費、財産分与などの金銭の支払いを受ける債権者側にとって、未払いの状況で相手の連絡先が分からないと請求に手間がかかります。

他方、支払う債務者側にとって振込先口座不明で支払いができない状況は、不払いとなり強制執行を受ける可能性が生じます。

そのため、次のように連絡先などの変更時に関する通知義務についての条項を記載します。

参照 離婚公正証書の面会交流の条項

第〇条 甲は、住所、電話番号等連絡先及び勤務先を変更した場合、速やかに乙に通知する。
2 乙は、電話番号等連絡先及び振込先金融機関口座を変更した場合、速やかに甲に通知する。


清算条項
離婚公正証書の記載内容以外に、お互いに債権債務がないことを確認するためのものです。
離婚後、公正証書作成後に、相手から慰謝料等の要求が続くと離婚問題に決着がつきません。

この清算条項を定め夫婦相互に確認することで、離婚問題解決に一応の目途がつくことになります。

参照 離婚公正証書の清算条項

第〇条 甲と乙は、本件離婚に関し この公正証書に定めるほか何ら一切の債権債務が無いことを確認し、名目の如何を問わず、何等の請求を行わないことを相互に確認する。




強制執行認諾文言(約款)付き公正証書
強制執行認諾文言(約款)付き公正証書にしておくことで、債務者である相手方に対して容易に財産を強制的に差し押さえることができます。

裁判が不要で「強制執行」にすぐ移ることができるこの機能が、私文書である離婚協議書との違いであり、離婚公正証書で作成することの目的のひとつとも言えます。

参照 離婚公正証書の強制執行承諾の条項例

第〇条 甲は、本契約に基づく金銭債務を履行しないときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。


3-3.離婚公正証書に記載できない内容


離婚公正証書は、法律の専門家である公証人が作成します。
そのため、法律に違反する内容は記載することができません。

いたずらに法外な慰謝料額の支払いや、過度な要求は違法、公序良俗に反する内容であるとして、公証人から記載できないものとして指摘される可能性があります。

3-4.離婚公正証書の作成費用


離婚公正証書の費用は、必要書類の取得費用以外に公証人に支払う手数料があります。

参照 公正証書の作成費用

公正証書記載の合計金額(慰謝料、財産分与、養育費等)に応じた手数料
 +
証書代(公正証書の枚数による費用)
※4枚まで1000円、追加1枚につき250円加算


公証人手数料は次のとおりです。
参照 「法律行為に係る証書の手数料」(公証人手数料令第9条別表)
目的の価格 手数料
100万円以下 5000円
100万円を超え200万円以下 7000円
200万円を超え500万円以下 11000円
500万円を超え1000万円以下 17000円
1000万円を超え3000万円以下 23000円
3000万円を超え5000万円以下 29000円
5000万円を超え1億円以下 43000円
1億円を超え3億円以下 4万3000円に超過額5000万円までごとに1万3000円を加算した額
3億円を超え10億円以下 9万5000円に超過額5000万円までごとに1万1000円を加算した額
10億円を超える場合 24万9000円に超過額5000万円までごとに8000円を加算した額

例えば、次の項目を離婚公正証書で定めた場合を考えてみます。
・養育費(大学卒業程度の22歳まで)
 600万円
  公証人手数料 17,000円

・財産分与(現金)

 200万円
  公証人手数料 7,000円

・年金分割(算定不能)

 公証人手数料 11,000円

∴ 公証人手数料 35,000円


各財産の価格に応じて手数料を計算し、合計します。
なお、年金分割は算定不能として、原則11,000円とされています。

これらに、作成した公正証書の枚数に応じた証書代や、年金分割のために必要な年金分割の取り決めの箇所だけを記載した抄録謄本の交付手数料(250円/枚)などの費用が発生します。

このように公証役場の利用料金の目安として、離婚公正証書には5万円程度~の手数料と、数千円程度の証書代がかかると考えておくと良いでしょう。

 

4.離婚公正証書作成後の養育費不払いへの対応



強制執行認諾の文言がある離婚公正証書は、債務者への強制執行に必要な法律上の債務名義にあたります。
金銭の不払いがあった際には、債務者である相手の住所地を管轄する地方裁判所に強制執行を申し立てます。

差し押さえできるのは、給与、預貯金、生命保険の解約返戻金、有価証券などの債権や、貴金属・宝飾品などの動産、不動産があります。

例えば、給与の差押えの場合、手取り額2分の1まで差し押さえができます。(手取り額66万円/月を超える場合、33万円を控除した額について差し押さえできます。)
また、債務者の勤務先には、不払い分だけでなく、将来発生する毎月の養育費を直接あなたに支払ってもらうことも可能です。

5.まとめ



離婚公正証書作成は、離婚後のトラブルやリスク回避に効果があります。


ただし、「離婚協議の際に財産分与、養育費などの意味や内容を正しく理解して話し合いができた」という方々は少ない、という調査結果があります。(「協議離婚に関する実態調結果の概要 」(法務省委託調査研究))

古山綜合法律事務所では、離婚問題の解決をお手伝いしています。
もちろん、離婚公正証書の作成サポートも対応可能です。
当事務所では、希望を漏れなく反映した離婚公正証書が作成できるよう、完成までしっかりフルサポートいたします。

弁護士に依頼することで弁護士費用がかかるというデメリットはありますが、あなたの希望を踏まえて相手方との代理交渉、離婚公正証書作成のための原案の作成、公証人とのやり取りなど事務手続きも代行してもらえるため精神的負担は大幅に軽減できます。

また、離婚公正証書の作成には相手方の同意と協力が必要です。
相手が協議離婚に応じない場合には、離婚調停、離婚裁判などによる解決も検討しなければなりません。
弁護士には専門知識や解決ノウハウがあるため、より有利で納得のいく離婚条件等を引き出せる可能性があります。

離婚にあたり少しでもご不安や心配がある方は、お気軽にお問い合わせください。
初回無料相談では、あなたのお気持ちやご事情などのお話に耳を傾け丁寧にお伺いし、問題点を整理したうえで弁護士が具体的にアドバイスいたします。
ぜひ、ご相談ください。

後悔のない離婚、自信をもって新しい人生を始めるために、当事務所が全力でサポートいたします。



【お願い】
※ 次の内容は初回無料法律相談の対象外です。
  ・離婚協議書案のチェックなどは一定の責任が生じるため、ご依頼前の対応をお断りしております。
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