高次脳機能障害とは(症状)
高次脳機能とは、理解する、判断する、論理的に物事を考えるなどの人間の脳がもつ機能(認知機能)です。そして、頭部外傷による脳の損傷などによってこの高次脳機能に異常が生じた状態を「高次脳機能障害」といいます。 高次脳機能傷害は脳梗塞や髄膜炎などによっても発生しますが、厚生労働省の調査では76%が頭部外傷を原因としています。
交通事故によって局所性脳損傷やびまん性脳損傷(びまん性軸索損傷)などが起きると、事故前にはできていたことができなくなってしまったり、性格が変わってしまうことがあるのです。
症状・変化には注意
高次脳機能障害の症状は多種にわたり、失語など分かりやすいものもありますが、なかには注意力や持続力の低下、すぐ怒るといった性格の変化など被害者本人も自覚しにくいものもあります。
また、脳損傷が起きるほどの事故にあった場合は、頭部以外にも大きなケガをしていることも珍しくないため、被害者本人や医師がほかの症状の治療に集中してしまいます。
そのため、被害者本人はもちろん、医師も高次脳機能障害を見落とすことがあるのです。脳外傷による高次脳機能障害は「見過ごされやすい障害」といえるでしょう。
現に、ご家族といっしょに当事務所へご相談に来られ、弁護士がご家族の意見を聴き取ってはじめて高次脳機能障害に気付かれた方もいらっしゃいました。
被害者本人に症状の自覚があるときは当然ですが、症状の自覚がなくてもご家族など周囲の方たちから指摘を受けている場合も、高次脳機能障害の有無を確認するため脳神経外科などで神経心理学的検査(WAIS-Ⅲ、標準注意検査法(CAT)など)や画像診断を受けることをお勧めします。
代表的な症状
高次脳機能障害は、① 局所性脳損傷(脳の特定部位に損傷などが生じること)、② びまん性脳損傷(広範囲にわたって脳損傷が生じること)の原因によって、代表的な症状が異なります。
局所性脳損傷
失語(言語の障害)
- 相手の言っていることはある程度分かるが、自分は話すことができない。
- 相手の言っていることが分からない。
失行(運動自体に異常がないのに、身につけていた動作ができなくなる障害)
- 物事の進め方や道具の使い方が分からない。
- 図を真似て描くことができない。
失認(見たものを認識できない障害) - 見えているのに物が何か分からない(触ると何か分かる。)。
- 知っているはずの道で迷う。
びまん性脳損傷
記憶障害(記憶力の低下)
- 昔のことを思い出せない。
- 新しいことが覚えられない。
注意障害(注意力・持続力の低下)
- 物事に集中できない、落ち着かない。ほかのことが気になって途中でやめてしまう。
- 注意力がなく、ミスが多い。
遂行機能障害(計画を立てる、計画どおりに行動する力の低下)
- 複数の場所を順番に回れない。
- 複雑な手順の作業ができない。
社会的行動障害(社会適応力の低下)
- すぐにイライラして怒りが爆発する。
- 意欲がなく何も手につかない。
高次脳機能障害の等級と慰謝料の相場
高次脳機能障害が認定される場合の等級は次のとおりです。
なお、後遺障害等級は「別表第一」は1級と2級、「別表第二」は1級~14級まであり、1級が一番重いとされています。
また、慰謝料には① 自賠責基準、② 任意保険基準、③ 裁判基準という3つの算定基準があります。
加害者の保険会社による示談金の提示額は、最低額である① 自賠責基準かこれとほぼ変わらないことが多いため、ここでは、① 自賠責基準と③ 裁判基準による慰謝料の額をご説明します。
認定基準 | 自賠責基準 | 認裁判基準 | |
---|---|---|---|
1級1号 (別表第一) |
身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身の回り動作に全面的介護を要するもの | 1650万円 | 2800万円 |
2級1号 (別表第一) |
著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、一人で外出することが出来ず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことが出来ても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことが出来ないもの | 1203万円 | 2370万円 |
3級3号 (別表第二) |
自宅周辺を一人で外出出来るなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全く出来ないか、困難なもの | 861万円 | 1990万円 |
5級2号 (別表第二) |
単純繰り返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習出来なかったり、環境が変わると作業を継続出来なくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことが出来ないもの | 618万円 | 1400万円 |
7級4号
(別表第二) |
一般就労を維持出来るが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことが出来ないもの | 419万円 | 1000万円 |
9級10号
(別表第二) |
一般就労を維持出来るが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの | 249万円 | 690万円 |
等級によっては、① 自賠責基準と③ 裁判基準で2倍以上の違いがあります。 裁判基準は、「弁護士基準」とも言われることがあります。これは、弁護士が示談交渉または訴訟をする際に用いる基準だからです。
被害者にとって通常一番有利な「裁判基準」に基づく慰謝料を獲得することが、被害者本人の今後の生活などを経済面でしっかり支えられることにつながるのは言うまでもありません。
高次脳機能障害として認定されるための資料
自賠責保険は、以下の3点に着目して、高次脳機能障害の有無や程度を判断しています。
- 交通事故による脳損傷を裏付ける画像検査結果(CT、MRI画像など)があること。
- 一定程度の意識障害が継続したこと。
- 一定の異常な傾向が生じていること。
なかでも、特に①が重要とされています。
交通事故による脳損傷を裏付ける画像検査結果
高次脳機能障害の等級認定では、CTやMRIなどの画像所見が重要視されています。
CTやMRI画像での経時的観察による脳出血(硬膜下血腫、くも膜下出血などの存在とその量の増大)像や脳挫傷痕の確認があれば、外傷による脳損傷を確認されやすいです。
また、CT画像で所見がないものの頭蓋内の病変が疑われるときは、早期にMRI撮影するのが望ましいとされています。
ただ、びまん性軸索損傷は、CTやMRIで明らかな血腫や脳挫傷が認められません。
その場合、MRIやCT検査で脳室拡大や脳溝拡大など脳全体の委縮がみられ、事故から3か月ほどでその固定が確認されれば、びまん性軸索損傷の発症が肯定できるとされています。
一定程度の異常な傾向
「1.高次脳機能障害とは(症状)」でご説明した症状などの障害が、交通事故での頭部外傷を契機として発生していることが必要です。
そして、これら障害が脳外傷によるもので、メンタル不調といったほかの原因で生じたものでないことが確認されなければなりません。
ただ、発生した障害が脳外傷によるものかメンタル不調などほかの原因によるものかを判別するのは難しいため、実際には画像所見と意識障害の有無から脳外傷によるものかを判断していると思われます。
一定程度の異常な傾向については、医師の作成する「神経系統の障害に関する医学的意見」やご家族などの作成する「日常生活状況報告」が資料になります。「神経系統の障害に関する医学的意見」と「日常生活状況報告」の記載内容が大きく異なっていると、等級認定に影響を与えるおそれがありますので注意が必要です。
高次脳機能障害における弁護士サポート
高次脳機能障害は後遺障害等級のなかでも特に重度のもので、賠償金も高額になりやすいものです。
しかしながら、被害者本人はもちろん医師も見落とすこともある「見過ごされやすい障害」で、加害者の保険会社も積極的に案内することはありません。現に、当事務所にご相談に来られてはじめて気づかれた方もいらっしゃいました。
また、後遺障害の等級認定を受けるためのポイントもほかの等級と比べて分かりづらく、資料もほかの等級にないものが必要となります。
さらに、賠償金が高額になりやすいことから、加害者の保険会社との示談交渉もシビアになって示談交渉自体の負担感が大きくなるだけでなく、適正な賠償金を獲得するためには裁判が必要となる可能性が比較的高いといえます。
当事務所は、高次脳機能障害の等級認定申請、示談交渉、裁判の経験を複数有しており、被害者ご本人やご家族へ次のとおり手厚いサポートを行っております。
- 入通院/治療/検査についてのアドバイス
- 必要に応じてかかりつけ医のお医者様との面会
- 後遺障害等級認定手続のフルサポート
- 加害者の保険会社との示談交渉
- 裁判手続の代理、期日出頭の代理、期日後のご報告、裁判所への提出書類の取付け・作成
- 依頼後の打ち合わせ(対面、電話、メール)無料
まずは、これからのことを考えて、今何をするべきかについて無料でアドバイスいたします。被害者ご本人様、ご家族様からのご相談をお待ちしております。