不倫した配偶者が親権者となる場合の「養育費」支払い義務
不貞慰謝料
不倫・浮気をした配偶者が親権者となる場合でも、養育費の支払い義務はあります。
養育費の算定方法や、請求方法などについても弁護士が解説します。
目次
- 1.「養育費」と「不倫慰謝料」の関係
- 2.養育費とは
- 2-1.養育費の支払い義務
- 2-1-1.養育費の書面化(公正証書の作成)
- 2-1-2.妊娠中に離婚した場合の養育費
- 2-1-3.養育費を受け取っていた不倫した配偶者が再婚した場合
- 2-2.養育費の相場
- 2-2-1.養育費の算定方法
- 2-2-2.養育費の変更は可能か
- 2-3.養育費の支払い期間
- 2-4.養育費の請求方法
- 2-4-1.離婚前は「協議離婚」「夫婦関係調整調停(離婚)」
- 2-4-2.離婚後は「養育費請求調停」
- 2-4-3.養育費の未払いの対応
- 2-4-4.不倫相手として妊娠し、養育費を請求する場合
- 3.まとめ(不倫した配偶者も養育費を請求できる)
1.「養育費」と「不倫慰謝料」の関係
不倫・浮気が原因で離婚する場合に、お子さまの養育費の支払いについてトラブルになることがあります。
それは、不倫をした配偶者が、未成年者の親権者となるケースです。
不倫された配偶者からすれば「相手の浮気で離婚したのに、養育費を支払うのは納得がいかない」という気持ちになるのも当然でしょう。
しかし、養育費はあくまで「お子さまのために支払われるお金」で、不倫をした配偶者の生活を支えるものではありません。
不倫慰謝料は、不倫・浮気をして離婚原因を作り出した相手に「不倫・浮気により円満な夫婦関係を壊されたことに対する精神的苦痛」を負ったことに対する損害賠償請求です。
そのため、子どものために支払われるお金である養育費と、不倫の相手方に対する慰謝料請求と目的は異なるため、「不倫・浮気したから、養育費は支払わない(相殺して減額する)」という主張をすることは難しいです。
親の責任として、子どもに対する扶養義務はあります。
離婚理由は、養育費の支払いに関係がありません。
そのため、不倫をした配偶者が親権者となる場合でも、養育費を請求することは可能です。
参照コラム
不倫・浮気を原因とする不貞慰謝料について弁護士が解説した記事です。
慰謝料の目安や、慰謝料請求の対処法から注意点まで、不貞行為に関する慰謝料請求のポイントをわかりやすくお伝えします。
2.養育費とは
養育費とは、別居の未成熟子(みせいじゅくし)の教育費や医療費、衣食住に必要な生活費として支払われるお金のことです。
未成熟子とは、単純に未成年(18歳未満)ということではありません。
経済的・社会的に自立できているかどうかをもとに考えます。
家庭裁判所の実務では、原則として20歳になるまでを未成熟子としてきました。
なお、未成熟子は親権者のもとで生活をすることが通常です。
親権者は離婚届に記載が必要で、離婚時に決めることになります。
親権の内容は「財産管理権」「身上監護権」に分かれています。
身上監護権は、子どもを監督・保護し、教育する権利です。
身上監護権は実際に子どもと生活をし、世話をする権利と言えます。
親権者と身上監護をおこなう親(監護権者)が同一のことがほとんどですが、親権者が監護できない事情がある場合には、別々に定めることがあります。
こうしたケースでは、監護権者が親権者に対して養育費を請求します。
本来であれば、親権者と監護権者が同一であることが、子どもの福祉(生活の安定)にとって良いと考えられています。
監護権者が不倫をした配偶者であったとしても、養育費は請求することは可能です。
不倫をした配偶者が親権者になることについて、くわしく次の関連記事で紹介しています。
2-1.養育費の支払い義務
監護している親は、一方の親に対して養育費を請求できます。
不倫をした配偶者が監護しているからといって、養育費の支払いを拒否することはできません。
但し、支払う側の親が職を失い無収入となったような場合や、監護権者である不倫をした配偶者に十分な収入がある場合には、養育費を請求しないという場合もあります。
なお、養育費の支払い義務の程度は、「親である自分と同じ生活を保持するのと同じレベルで、子どもにも保持させる義務(生活保持義務)」であるとされています。
2-1-1.養育費の書面化(公正証書の作成)
養育費の支払いについて取り決めをした際には、メールやLINEなどでのやり取りや口約束で済ませるのではなく、「書面」にしておくことが一般的です。
公証役場で公正証書(こうせいしょうしょ)を作成しておくと、養育費の未払いの際に裁判をすることなく、預金口座の差押えなど強制執行の手続をすぐにとることができるので安心です。
公正証書とは、元裁判官や元検察官など法律の専門家である公証人(こうしょうにん)が作成する書面のことです。
公証人の手数料は、養育費の金額など内容により異なります。
養育費未払時の裁判の手間などのリスクと、公証人の手数料を比較して公正証書の作成を検討されるのが良いでしょう。
参照 | 養育費に関する公正証書の条項例
第〇条 甲は、乙に対し、長女、長男(以下「子供たち」という。)の養育費として、離婚届出の受理の前後を問わず、令和●年●月から子供たちがそれぞれ満22歳に達した後最初に到来する3月まで、各人につき1か月金●万円ずつの支払い義務があることを認め、これを毎月10日までに乙の指定する金融機関の口座に振込み支払う。振込手数料は、甲の負担とする。
2 子供たちが満22歳に達した後最初に到来する3月以前に就職が決定し、自立が見込まれる場合には、当該子が就職した日の属する月以降の甲の乙に対する当該子の養育費を免除する。
3 甲及び乙は、将来、失職、物価の変動、収入の増減その他の事情変更があった場合、協議の上、養育費を増減することができる。
4 甲及び乙は、子供たちの進学、病気、入院等による特別の費用の負担については、別途協議するものとする。
2-1-2.妊娠中に離婚した場合の養育費
妊娠中の離婚では、離婚後に生まれた子どもの親権者は母親になります。
不倫をした妻が妊娠した場合、不倫相手の子か、現在の夫の子であるのかという問題はありますが、① 夫の子どもを妊娠し、離婚後300日以内に出産した場合には元夫に対して養育費を請求できます(離婚後300日より後に出産した場合、元夫に子どもの認知をしてもらう必要があります)。
反対に、② 不倫相手の子どもを妊娠し、元夫と離婚した場合、不倫相手に認知をしてもらい養育費を請求します。
お子さまとの今後の生活の不安も大きいと思います。
認知のための手続きや、養育費の取り決めのためのサポートもおこなっています。
当事務所の弁護士までご相談ください。
2-1-3.養育費を受け取っていた不倫した配偶者が再婚した場合
親権者である不倫をした配偶者が、不倫関係にあった相手と再婚する場合があります。
再婚相手とお子さまと養子縁組をした場合、再婚相手が扶養義務を負います。
この場合、養育費の支払金額が減額あるいは0円となる可能性があります
2-2.養育費の相場
養育費の相場として、裁判実務上用いられている基準は「家庭裁判所」の養育費の算定表です。
「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について」
ページタイトルは平成30年度となっていますが、最新の令和元年版です。
なお、子の人数、年齢別での具体的な養育費の算定表は次のように分かれています。
子1人 │ 14歳以下
子1人 │ 15歳以上
子2人 │ 全員14歳以下
子2人 │ 第1子15歳以上、第2子14歳以下
子2人 │ 全員15歳以上
子3人 │ 全員14歳以下
子3人 │ 第1子15歳以上、第2子及び第3子14歳以下
子3人 │ 第1子及び第2子15歳以上、第3子14歳以下
子3人 │ 全員15歳以上
2-2-1.養育費の算定方法
養育費の算定表で、次のケースをもとに養育費を計算します。
- 子どもの人数
1人(0歳) - 義務者(支払う側)の年収
500万円(会社員/給与所得者) - 権利者(支払いを受ける側)の年収
0円(専業主婦)
▶ 養育費 6万円~8万円/月
子どもの人数(1人から3人)と年齢(0歳から14歳、15歳以上)、養育費の支払いを受ける権利者の年収、養育費の支払義務者の年収をもとに毎月の養育費の額を計算します。(不倫・浮気をしたことが、子どものために支払われる養育費の額に影響を与えることはありません。)
それぞれが、収入を得ている場合「給与(会社員)」「自営(自営業者)」としての収入が交差する個所が、毎月の養育費の基準となります。
養育費算定表では、2万円ほどの金額の幅で定められています。
算定表の金額は裁判手続きにおける基準となりますが、夫婦双方の事情を考慮し判断されることになります。
なお、協議離婚の段階では、夫婦双方が合意すれば、その金額が養育費となります。
あくまで上記は、裁判所で養育費を決める際の基準です。
2-2-2.養育費の変更は可能か
養育費の支払いについて取り決めたあと、養育費の支払い金額変更は可能です。
失職、減収、子の就職、権利者側の元配偶者の再婚や子どもが再婚相手と養子縁組するなど状況が変わった場合には、話し合いや家庭裁判所の「養育費減額請求」調停の申し立てをおこないます。
なお、離婚協議書の公正証書では、そうした事情変更の可能性に備えて、あらかじめ次のように定めておくことがあります。
参考 | 事情変更による養育費変更に備えた条項例 ①
甲及び乙は、将来、失職、物価の変動、収入の増減その他の事情変更があった場合、協議の上、養育費を増減することができる。
参考 | 事情変更による養育費変更に備えた条項例 ②
甲及び乙は、子供たちの進学、病気、入院等による特別の費用の負担については、別途協議するものとする。
※ この条項は特別の費用を加算する場合のもので、養育費の基本額を変更するものではありませんが、参考までに掲載します。
2-3.養育費の支払い期間
養育費は、未成熟子に支払うものと説明しました。
支払期間は、基本的には双方の話し合いで決めた期間となります。
協議離婚において、具体的に「子どもが大学卒業するまで」「就職まで」のように決めることが多いです。
公正証書による養育費の取り決めをする場合には、次のように決めることがあります。
参考|養育費の支払期間の条項例
第〇条 甲は、乙に対し、長女、長男(以下「子供たち」という。)の養育費として、離婚届出の受理の前後を問わず、令和●年●月から子供たちがそれぞれ満22歳に達した後最初に到来する3月まで、各人につき1か月金●万円ずつの支払い義務があることを認め、これを毎月10日までに乙の指定する金融機関の口座に振込み支払う。振込手数料は、甲の負担とする。
なお、家庭裁判所の実務では、原則として20歳になるまでを未成熟子としてきました。
旧民法では20歳が成年とされていましたが、現在では民法が改正され成人年齢が引き下げられて18歳となりました。
しかし、改正の前に協議離婚による合意や、裁判により養育費を満20歳までと定めていた場合には、この改正で18歳に変更とはなりません。
2-4.養育費の請求方法
不倫をした配偶者であっても、養育費の請求は通常の場合と変わりはありません。
養育費請求の方法や流れについては次のとおりです。
2-4-1.離婚前は「協議離婚」「夫婦関係調整調停(離婚)」
まずは、内容証明郵便による不貞慰謝料請求をおこないます。
その後に話し合いで離婚条件(財産分与、離婚慰謝料など)をつめていく中で養育費の支払を求めます。
内容証明郵便で養育費の請求をおこなう理由は次の通りです。
- 請求したことを証拠として残す
(請求されていない、という主張を封じる) - 慰謝料の請求期限を先延ばしにできる
(消滅時効の更新(中断))
話し合いで養育費の金額について合意できた場合には、確定した内容を公正証書で作成しておくことをお勧めします。
公証役場で作成できる公正証書があれば、訴訟をしなくても金銭の不払いがあったときに、すぐ預金を差し押さえるなどの強制執行が可能です。
養育費の回収リスクをおさえることができます。
夫婦双方の話し合いで合意できない場合には、家庭裁判所の「夫婦関係調整調停(離婚)」の利用を検討します。
裁判所利用の離婚手続では、いきなり訴訟を起こすことはできません。
まずは調停手続を利用することになっています。(調停前置主義。 家事事件手続法第257条)
調停手続は、家事調停委員と呼ばれる第三者を交えた話し合いです。
家事調停委員は、弁護士の資格を有する方などから選ばれます(専門家以外の方からも選ばれています)。
離婚調停で養育費など離婚条件について話がつけば、裁判所で「調停調書」が作成されます。
調停調書は、判決と同じ効力があります。
調停の中で取り決めをした養育費に未払いが発生した時は、給料の差押えなどの強制執行手続が可能になります。
なお、不払いについて家庭裁判所を通して、養育費の支払うよう相手を説得する「履行勧告」をしてもらうことも可能です。
履行勧告は無料で利用できます。
また、履行勧告にも応じない場合には、履行命令という手続きをとることもできます。
この履行命令も無料で利用できる手続きです。
履行勧告との違いは、相手が正当な理由なく養育費の支払をしない場合、過料の制裁があります。
過料とは罰金のことで、これにより間接的に養育費の支払いをうながすことを目的にしています。
履行勧告にも応じない場合に、強制執行手続きを検討しても良いでしょう。
一方で、離婚離婚調停手続はあくまで話し合いであるため、相手が裁判所に出廷しない、当事者同士が離婚条件で合意にいたらなかった場合には不成立となり終了します。
その場合には、離婚訴訟を提起することになります。
離婚訴訟は、お互いに主張や、証拠を提出するなどして、最終的に裁判所の判断を待つこととなります。
なお、裁判所から和解案を提示されることもあり、双方が合意すると和解で終了することもあります。
2-4-2.離婚後は「養育費請求調停」
すでに離婚している場合には、家庭裁判所に「養育費請求調停」を申立てます。
なお、事情が変更するなどして、養育費の内容が現状に見合わない時には、一度決めた養育費について増額や減額をもとめて調停をおこなうことも可能です。
養育費請求調停も、相手が出廷しない、話合いで合意にいたらず不成立となることがあります。
ただ、この調停手続においては、自動的に審判手続に移行します。
審判手続では、家庭裁判所の裁判官が審判(≒判断)をすることになります。
参照リンク
2-4-3.養育費の未払いの対応
養育費の支払いについて、調停で合意した場合には調停調書といった書面の交付が受けられます。
調停手続による解決後の養育費未払いについては、家庭裁判所から「履行勧告」といって、相手に支払うよう連絡をしてくれます。
こうした手段をもってしても、支払いに応じようとしない場合には、相手の給料や口座を差し押さえるための強制執行手続などを検討することになります。
2-4-4.不倫相手として妊娠し、養育費を請求する場合
未婚のままお子さまを妊娠・出産した女性が、男性から認知を拒否されたり、音信不通となった時には家庭裁判所に対して「認知の訴え」をおこします。
認知の訴えで判決を獲得して確定することで、認知の効力が発生します。
これにより、法律上の父子関係も確定します。
なお、別途、市区町村役所に届け出が必要です、ご注意ください。
婚姻関係にない男女間で生まれたお子さま(非嫡出子)と、婚姻関係にある男女間に生まれたお子さま(嫡出子)との間で、養育費や支払い期間に違いはありません。
また、認知した父親は、母親である女性に対して養育費を支払う義務があります。
なお、男性の戸籍に認知をした事実が記載されます。
そのため、不倫をされた妻から夫に対して慰謝料を請求される可能性が高くなります。
3.まとめ(不倫した配偶者も養育費を請求できる)
不倫をした配偶者が、お子さまを監護する場合には養育費を請求することができます。
お子さまの養育費請求と、不貞慰謝料の請求は対象が異なるためです。
不貞行為による慰謝料請求は夫婦間の問題であり、養育費はお子さまの問題とは無関係です。
感情が対立することの多い離婚問題・男女問題においては当事者で解決することが難しい場合があります。
またDVやモラハラがある場合、当事者間でまともな話し合いができないと思います。
こうした場合には離婚・男女問題に強い弁護士を代理人として立てることで、法的に適切で具体的な解決をはかることが期待できます。
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