自己破産で車はどうなる? 車を残す方法と破産手続上の基本ルール
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自己破産で車はどうなる? 車を残す方法と破産手続上の基本ルール
車が必須の生活環境にある方にとって、自己破産で車がどうなるか死活問題だと思います。
結論として、「ローンが完済済み」で「査定額が20万円以下」であれば、車を手元に残せる可能性が高いです。
一方、ローン返済中の場合は原則として引き揚げられますが、例外的に残せるケースも存在します。
本記事では、車が処分される具体的な基準や、どうしても車を残したい場合の対処法(自由財産の拡張など)について、法律の専門家である弁護士が解説します。
1. 自己破産における車の扱いと基本ルール
自己破産をすると、生活に必要な最低限の財産(自由財産)を除き、一定の価値がある財産は原則として処分(換価)され、債権者への配当に充てられます。
車も「資産」とみなされるため、通常は処分の対象となります。
ただし、以下の条件に該当する場合など、車を手放さなくてもよいケースもあります。
- 査定額が低い場合(一般的に20万円以下)
- 生活必需品として裁判所が維持を認めた場合(自由財産の拡張)
- 初年度登録から一定年数を経過し、無価値とみなされる場合
このように、車を手元に残せるかどうかは、自己破産手続きの状況や車の価値、所有権の状態など細かな条件によって左右されます。
まずは基礎知識を押さえ、自分の状況を正しく把握することが大切です。
2. 自動車ローンが残っている場合:原則引き揚げ
結論として、原則として車は引き揚げられます。
ローン契約の多くには「所有権留保」という特約があり、完済するまで車の所有権はローン会社(信販会社やディーラー)にあります。
例えば、返済の滞納や自己破産申立ての手続きがあると、ローン会社は約款に基づき車を引き揚げて売却のうえ、その代金を残債に充てます。
これは「別除権(べつじょけん)」という優先的な回収権利の行使であり、自己破産で借金が免除されても拒否できません。
もし日常生活で車が必要であっても、ローン返済が残っている状態で自己破産を選択すれば、ほとんどの場合は手放さざるを得ません。
どうしても維持したい場合は、任意整理(カーローンのある会社を整理対象から外して他の借金だけ整理する)を検討するか、以下の例外的な方法を検討する必要があります。
2-1. ローン返済中の車はなぜ引き揚げられる?
所有権留保により名義上、車はローン会社の所有物です。
自己破産手続きに入ると、ローン会社は担保となっている車を回収し、売却益を残債に充当します。
これを避けることは原則としてできません。
銀行系マイカーローンなど、所有権留保がつかないケースでは、ローンがあっても「3. ローンを完済している車の取り扱い」と同様の基準(価値があるかどうか)で判断されます。
3. ローンがない(完済済み)場合:20万円以下なら残せる
結論として、査定額が20万円以下であれば、手元に残せる可能性が高いです。
ローン完済済み、または元から現金購入した車(および所有権留保のない車)は、その「現在の価値(時価)」で処分の有無が決まります。
3-1. 車の査定額20万円ルールと判断方法
自己破産手続きにおける、細かな運用は裁判所によって異なります。
実務上(特に東京地裁など)では、車の時価が20万円を超えるかが処分の分かれ目です。
年式・走行距離などを基準におこなった査定や中古車市場での相場(自動車価格月報。通称:レッドブック)をもとに評価します。
20万円を超えるようであれば処分対象となります。
また、初年度登録から一定年数を経過している場合には「資産性が無い(無価値)」と判断され、処分しなくても良い場合があります。
例えば、大阪地方裁判所では、以下の場合には無価値として処分が不要です。
管轄の裁判所により運用が異なることがあるため、お住いの地域の弁護士にご確認ください。
- 国産普通自動車
初年度登録から7年超えている、かつ新車時の車両本体価格300万円未満の場合 - 軽自動車・商用車
初年度登録から5年を超えている場合
3-2. 査定額が20万円を超える場合(自由財産の拡張)
査定額が20万円を超える場合でも、車を残せる可能性があります。
自己破産手続きでは、基本的に「99万円以下の現金」は自由財産(破産をしても自由にできる財産)となります。
これに関連して、「自由財産の拡張」という制度があります(破産法34条4項)。
これは、生命保険の解約返戻金や退職金見込額、そして「自動車」などの評価額を、99万円の枠内に含めることで、現金以外も自由財産の対象にすることができる制度です。
地方に居住しており公共交通機関が不便、家族の介護や障害のある家族の送迎に必須など、特別の事情があると判断されれば、この制度を利用して車の維持を許可される可能性があります。
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4. 車を手元に残すための具体的な方法
前述の「自由財産の拡張」に加え、以下の方法があります。
4-1. 親族・第三者による第三者弁済(ローン返済中でも車を残す方法)
家族や友人などの第三者が残債を全額一括で支払うことで、車を残せる可能性があります(第三者弁済)。
この際、返済不能状態であるにもかかわらず、カーローンだけを優先的に返済することは「偏頗弁済(へんぱべんさい)」にあたる可能性があります。
これは、債権者の公平性を害する「免責不許可事由」に当たる行為であり、裁判所から借金をゼロにする「免責決定」を得られなくなるリスクがあります。
そのため、本人の財産からではなく、必ず第三者に支払ってもらう必要があります。
4-2.親族・第三者による買い取り(ローンがない場合)
ローンが残っておらず、自動車の評価額20万円を超える場合、適正価格で親族や第三者に買い取ってもらい、使用をさせてもらう方法です。
自己破産前に、自動車を処分する場合、複数の中古自動車販売会社の査定書を取りつけ、適正額で買い取ってもらい、適正額で売却することが必要です。
自己破産手続き直近での売却処分は、裁判所に報告が必要です。
そのため、売却代金の使途を裁判所に説明できるように、売却時の資料などを残しておくことが大切です。
破産申立て後に、破産管財人に対して、親族による適正価格での買い取りを打診することも可能です。
破産管財人がこれを許せば、売却代金は債権者への配当原資にあてられます。
5. 自己破産でやってはいけない行為
自己破産手続きで不正や隠し事を行うと、免責(借金の帳消し)が認められないリスクがあります。
車を守りたい一心で以下の行為を行わないよう注意してください。
5-1. 名義変更・不当処分・ローン隠しのリスク
原則、名義人が自分以外であれば売却処分の対象になりません。
しかし、売却処分を恐れて、自己破産申立て前に車の名義を家族や親戚に書き換えるなどの行為は、「財産隠し」とみなされます。
また、適正価格より著しく低い金額で売却することも問題視されます。
これらの行為は「免責不許可事由(破産法252条)」に当たるため、原則として免責は認められません。
カーローン自体を隠す行為も免責不許可事由です。
契約書や支払い記録を追跡すれば、破産管財人が容易に把握できます。
車に限らず、不動産や貴金属なども含めて財産は正確に申告することが大前提です。
これらは破産管財人によって厳しく調査され、悪質な場合は詐欺破産罪に問われる可能性もあります。
5-2. 車の優先返済や一括返済が招く問題点
車を手元に残そうとしてカーローンだけを優先して返済することは、他の債権者を不利に扱う「偏頗弁済(へんぱべんさい)」です。
偏頗弁済は、前述した通り債権者を公平に取り扱う破産手続きの趣旨に反する行為に当たり、免責不許可事由となります。
また、管財人によってその返済が取り消され(否認権の行使)、結局車が処分されるケースもあります。
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6. 自己破産後の車利用に関する選択肢
車を手放すことになった場合でも、以下の方法で移動手段を確保できます。
車を無理に維持するのではなく、必要最低限の利用に切り替えて家計を安定させる方が、自己破産後の生活再建にはプラスに働くことが多いです。
6-1. カーシェア・レンタカー・タクシーを活用する
車を所有せずに利用できる代表的な方法として、カーシェアやレンタカーといった選択肢があります。
必要なときだけ借りられるため、固定費や維持費を大幅に削減できます。
特に都市部では車を所有するよりも公共交通機関と組み合わせた方がコスト面で得な場合があります。
タクシーとの併用も含めて考慮すると、毎月の支出を管理しやすくなります。
6-2. 家族名義や現金一括での購入という方法
個人信用情報機関(ブラックリスト)に登録される5年から7年の間は、カーローン審査の通過が困難です。
信用情報機関(ブラックリスト)の登録期間
| 信用情報機関 | 概要 | 登録期間 |
|---|---|---|
| 株式会社シー・アイ・シー (CIC) |
主に信販会社(クレジットカード会社)や消費者金融が加盟。 | 免責許可決定の確定日から5年間。 |
| 株式会社日本信用情報機構 (JICC) |
主に消費者金融や一部の信販会社が加盟。 | 免責許可決定の確定日から5年間。 |
| 全国銀行個人信用情報センター (KSC) |
主に銀行や信用金庫、信用組合などが加盟。 | 破産手続開始決定の日から7年間 (2022年10月まで10年でしたが短縮されました)。 |
ただ、家族名義で車を買ってもらうケースや、現金で一括購入する方法が考えられます。
配偶者や親など、破産者以外は信用情報に影響がないため、家族がローンを組んで車を購入し、それを破産者が利用することに法的な問題はありません。
なお、破産手続開始決定後に得た収入は、自由財産となります。
貯めたお金で、安価な中古車を購入するのも一つの方法です。
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7. 車に関するよくあるQ&A
自己破産と車の関係について、よくある質問をまとめました。
個々の事情によって結論は変わる場合もありますので、さらに詳しく知りたい方は弁護士など専門家への相談が確実です。
7-1. Q1:10年落ちの車でも処分対象になる?
A. ほとんどの場合、処分の対象外となり残せます。
年式が古くても比較的価値がある車種(高級車やSUVなど)であれば、売却処分の対象となるケースがあります。
したがって10年落ちというだけでは処分対象から外れるとは限りません。
7-2. Q2:車の引き揚げ時期と具体的な流れ
A.弁護士に破産手続きを依頼した場合、ローン会社へ受任通知が届いてから、約1ヶ月~3ヶ月程度が目安です。
実際に車を引き渡すタイミングは、具体的な手続きの進捗やローン会社とのやりとりによっても異なります。
7-3. Q3:家族名義の車も影響を受ける?
A. 実質的に本人の所有物でなければ、影響を受けません。
ただし、名義が家族になっていても、実際の購入資金が破産者から出ているなど、実質的に破産者の財産と判断されれば処分対象となることがあります。
7-4. Q4:ETCカードや保険はどうなる?
A. クレジット付帯のETCカードは使えなくなります。
破産申立てにあたり債権者となるカード会社で契約していたETCカードは強制解約となります。
高速道路を利用する場合は、「ETCパーソナルカード」(デポジット型)を利用するなどの対策が必要です。
また、自動車保険(任意保険)は、解約返戻金が20万円以下(掛け捨てなど)であれば、契約者名義を変更せず継続できるのが一般的です。
8. まとめ
自己破産による車の処分は生活に直結する大きな問題ですが、正しい手続きを踏んでいれば道は開けます。
- ローンが残っている場合
原則引き上げだが、第三者弁済などの例外あり。 - ローンがない場合
査定額20万円以下(または初年度登録から一定年数経過している、新車価格が一定の価格未満の場合)には残せる可能性あり。 - どうしても必要な場合
「自由財産の拡張」の申し立て、第三者による弁済や買い取りなどを検討。
自己破産を検討している段階で、もし「車だけは絶対に守りたい」という希望が強いのであれば、任意整理など他の債務整理方法が適している可能性もあります。
自己判断で所有車の名義を変えたり返済したりせず、まずは専門家の意見を聞くことを強くお勧めします。
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ご事情を丁寧にお伺いし、解決までの見通しについてアドバイス致します。
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